大量の書類。俺達実験体にもその目的ぐらい教えてくれてもいいのによ。何にも言わないからパクられることになる
んだよ。しかし,警備の薄いことこの上なしだねここは。さてさてどんなことが書いてあるのかな。
『強化人間手術に対する資質を持った人間の製造。および、戦闘技術における教育を行う。また、それぞれの「個」を
無くし、兵器として扱い易いものへと……』
 その辺りは大体想像ついてんだよ。目的だ目的。
『それらからまずサンプルとして一体を抽出し、その個体の実用性の確認の後、デジタルコピーにて事実上の同一個体
を少なくとも十体製造する。また、製造プラントを二つに分け、それぞれで最も優れた個体から更に優れた一体を抽出
する。また、仮に第一プラントを<エデン>、第二プラントを<ヘヴン>と呼称する。最後にこのプロジェクトの変更、指
示の全権は<レオス・クライン>が持つ。更に、完成した個体の所有権も全て<レオス・クライン>が持つ』
 へぇ。ここ以外にも同じ様な所があるのか。しかし、ここのエデンってのもかなりイカレてるけど、第二プラントのヘヴン
ってのもかなりきちまってるな。事実上の同一個体ねぇ。どういうことだ? しかもレオス・クラインって言ったらレイヴン
のトップだろ? 何でそんな奴が……。
「NO13!」
 あ〜あ。また誰か来るよ。とりあえずこいつはごみ箱にポイだな。
「NO13。またここにいたのか」
「わかってるよ、戻りゃあいいんだろ」
「いや,お前だけに話があるらしい。所長室だ。分かるな?良い話か,悪い話かはお前次第だ。今すぐに行ってくれ」
 所長室?ここで一番えらい奴が居るところか?
「わかりました。では、また」
「嫌味か?」
「決まってんだろ」
 後ろで何か言っているが聞えない。聞いてられるかよ。俺は通路を歩いていく。確かB6だったか。エレベーターの方
が早いな。所長か。どんな面してるんだかな。俺と同じだったらその場で殴り殺してやるんだが。
 ちっ。いるよ。エレベーター前に忌々しい同じ顔。こいつも所長室か?かなり嫌だがそいつと並ぶことになる。早くこね
ぇかな。
チーン
 エレベーターが着いたみたいだな。そいつも当然の様に乗る。胸のナンバープレートを見るとNO15とある。俺と同じ
2班か。顔が同じだから気付かなかったよ。そう,こいつどころかここにいる殆どの奴が俺と同じ顔だ。真っ黒の髪,
瞳。違うのはナンバープレートに書いてある数字だけ。監査員に言わせて見ればみんな感じで分かるそうだが、俺達は
動物園の猿じゃねぇぞ。
チーン
 着いたか?いや、B3。NO15の目的地みたいだな。あいつが降りて,ドアが閉まる。俺は地上と言うものを見たこと
がない。生まれてからずっと地下,地下,地下だ。ACでの戦闘訓練でも廃墟の地下都市だ。これじゃあ人間小さくなる
よな。
チーン
 B6。俺は全ての階のボタンを押してエレベーターを降りる。何人がこれで困るのだろうか。まあ,その中に俺が含ま
れる心配は無いがな。通路を歩いていく。コンクリートで固められ,何の装飾もなされていない退屈な道。俺はこんな道
を何度歩いたのだろう。死ぬまでこのままなのか?死んでもこのままなのか?嫌だ。そんなのは嫌だ。

 ん?
 夢か……。二度目のはっきりした夢。過去の記憶。しかし,記憶が戻るとは違う。ただ昔あったことを見ているだけ、
まるで他人事の様に。不確かな事実が頭の中でぐるぐる回り遂にはもとに戻る。そんな感覚。目の前の光景がまるで
夢の続きの様にリアリティを失っている。
ピーッ、ピーッ、ピーっ……
 夢心地だった頭が電子音に反応した。助かった。このままだったら今日はなにも出来なかったところだ。せっかくだか
ら俺のを救ってくれた電話に出ることにする。
「俺だ」
『レイヴン,デュライだな。コインヅラインクから直接の依頼なんだが受けてくれるか?報酬は65000コームだ』
 コインヅラインクは今俺がACを預けている地下都市には珍しくないごく普通のガレージの名だ。いや,ごく普通は無
いか。兵器を置いてあるガレージが普通な訳がない。慣れは恐ろしいもんだ。
「内容にもよるぜ。説明してくれ」
『もうそちらにメールを送っている。手続きはナーヴの時と同じだ。できれば受けてくれ。結構緊急自体なんだ。頼む』
「わかった。手続きを済ませてからそっちに行く」
 そう言って電話を切る。少し面識が出来るとこのように直接依頼を送ってくることが多い。ナーヴスに頼むと仲介料を
取られるからその分安く済むってわけだ。こういう依頼は信用ができないことが多いが,相手が俺の行っているガレー
ジだったらその点は大丈夫だろうがな。端末を携帯ナーヴと繋ぎメールを開く。
to レイヴン
『コインヅラインクから直接の依頼だ。ここにいるレイヴンで一番信用できそうなお前に頼みたい事がある。実はここで
お世話になっているショップ<ザム・S>との輸送経路に謎の戦力が存在して物資が遅れなくなっているそうだ。多分あ
ちこちを騒がしているインディーズの連中だろう。他のショップに頼んでもいいんだが便利上そういうわけにもいかない。
とはいえこのままではレイヴンからの信頼を失い経営が行き詰まってしまう。すでにレーザー兵器の透過フィルターが
在庫をついた。時刻は特に指定しないが出来れば早く始末して欲しい。遅くとも今日中に頼む。場所はここから東部に
ある既に廃棄された地下都市だ。そこへの脚はこちらに任せてくれ。では、待っている』
 契約を結ぶ。しかし,またインディーズか。最近では企業側も手をやくほどの活発さを見せている。しかし,こいつらが
廃棄された地下都市を陣取るのにどんな意味があるんだ?謎が尽きねえってのはこのことだね。
 七時ちょっと前か。特に急ぐことは無い。とりあえずなにか食わないとな。ビニール袋からパンを取り出そうとしたがそ
こにはパンは無かった。そうか、あのパンがなくなるほどの時間がもう過ぎたんだな。そろそろ引越しをしていいころ
だ。一瞬にして過ぎる未来,それが現在だとどこかの本で読んだことがある。もしかしてニコライの言う通り過去にこだ
わるのは賢くないかもな。まあいいさ。俺の存在意義,俺の生き甲斐,それがレイヴンだ。
 考えてもしょうがない。ガレージに行くついでに何か買えばいいだろう。例の如くまだ鳴っていない目覚し時計を止め,
部屋を後にした。



「なんだそれ」
「ジャムですよ。ジーノちゃん食パンをトーストにしてるだけだからこういうのあったほうがいいと思って」
 ロジャーはそう言ってバーメンタイドに黄色い液体の入ったガラス瓶を見せた。どうやら彼の自家製のようで,ビンの
蓋にオレンジとマジックで書かれている。ロジャーがここで世話になって数週間が経っていた。ガレージにある空き部屋
を、出来る限り食事を作り,ガレージを手伝うという条件で借りているのである。レイヴンだったら割に合わない条件だ
と思うはずだが,彼はガレージにいれば好きなだけACを眺めることが出来ると大喜びでその条件を飲んだのだった。
「まったくお人好しだよなお前は」
「いえいえ、ただ好きでやってるんですから」
 それでもジーノのロジャーに対する対応はあまり変わってはいなかった。ジーノにとってはやはりレイヴンという存在
は目の敵でしかなく,ロジャーの人間性を知りながらもそれを認めることは出来ないようである。
ピーッ、ピーッ、ピーッ…………
 電子音がガレージに響いた。厨房からは遠いところにあり少しくぐもって聞える。
「あ,俺出ます」
 そう言ってロジャーは電話に向かって行った。まだ他の整備士はACの換装の途中だ。うるさい作業音の中電話に出
る。
「はい。ガレージ・バーメンタイドです」
 電話の応対にも慣れたものだ。ロジャーがいかにこき使われているかが良く分かる。
『コヨミですけど,ジーノさんいますか』
 電話の向こうから若い女性の声が聞こえた。電話の内容から考えて歳はジーノと変わらないだろう。
「いますよ。代わりますか?」
『はい』
「ジーノちゃん! コヨミさんから電話だよー!」
 ガレージのうるさい作業音に負けない大声で休憩中のジーノに声をかける。一応電話を手で抑えているが作業音も
含めて聞えているのではないだろうか。せめて電話の時ぐらいは作業を止めて欲しいな,と常々思っているのだが。走
ってきたジーノに受話器を渡す。その時も出来るだけ手を離さないように。
「コヨミ? 代わったよ。何? ……うん。……うん、いいよ。じゃあ,駅でね。……うん。じゃあね」
 受話器を置く。ピッ、と小さな音はうるさい作業音にかき消された。
「ロジャ−,あたし有給取るからっておじさんに言っといて」
「えっ!?ちょっと待ってよ。それじゃ怒られるの俺じゃん!」
「あと、駅の北口までバイクで送って欲しいんだけど」
「せめて親方には自分で言ってよ」
 ジーノはその言葉を無視して自室に戻って行った。しかたくロジャーはバーメンタイドにそれを伝えたが、その怒りは
ロジャーに向けられることになった。



 鉄の音が聞こえる。騒がしい喧騒が聞こえる。俺のデスズブラザーがハンガーに掛けられ,その形をどんどん変えて
いく。地下都市だ。必要最低限の機動力は欲しい。俺は重量二脚を選んだ。換装が終わるまで後一時間はかかるだろ
う。途中で買ったハンバーガーの入っていたビニールを握り締めながらざっと見積もる。
 ……レオス・クライン。
 五年前火星でフライトナーズを率い,火星の支配を目論んだ革命家。レイヴンの国を創ろうとしたイカレタ野郎だ。俺
も火星ではフライトナーズと戦ったことはあったがクラインに会ったことはない。こいつのせいで火星の仕事がし難くなっ
たんだぜ?
 どうしようもなくあの夢が気になる。あの夢が俺の過去の記憶だとすればレオス・クラインがなぜ関わる?エデン,ヘ
ヴン、プラントだ? じゃあ俺はそこで造られた人造人間だってのか?そのプラントはいまでも存在するのか?どうしよ
うもなく落ちつかない。電話番号を知らない相手の電話を待っているようなものだからな。しかもいつかかってくるかわ
からねぇ。ああ,クソッタレ。
「レイヴン。マシンガンのマガジンの在庫がない。どうする?」
 整備士がいきなり聞いてきた。こっちも緊急自体だね。俺も負けねぇけどな。
「サブマシンガン<ZWG−AR/K>はあるか」
「ああ」
「じゃあそいつで良いよ。早くしてくれ」
「こっちも急ピッチなんだよ。なんせただじゃ済まないのはこっちも同じだからな」
 そう言って部下たちに指示を出し始めた。サブマシンガンか。軽量な分一発の威力が劣る上,弾数も少ないから長期
戦には向かない。マシンガンより連射が利くから瞬間的な威力は勝るが俺の機体には合わないな。
 ……早く仕事がしたい。このままあの夢を引きずってたら体に悪そうだ。とりあえず少しの間だけ忘れていたんだが
な。しかしこのままで俺は……俺のままでいられるのか?



「やっぱり遠いなぁ」
 もう何回目かになる赤信号でロジャーは独り言の様に言う。この都市は交通量が多いためか信号が頻繁に変わる。
そして人が集まる公共施設は決まってガレージから遠いのだった。
「あのさ、コヨミちゃんって,この前学校の途中で見た小さいコ?」
「まあね」
 素っ気無くジーノは返事をした。ジーノもさすがにロジャーを無視するようなことは無くなったが,それでもその扱いは
ぞんざいであった。
「ジーノちゃんってさ、今度何歳になるの?」
「この前も同じこと聞いたよね。なんでそんなこと聞くのよ」
「だってさ、ロウソク何本並べればいいか分からないじゃない」
「へっ?」
 意味がよくわからずに間抜けな返事しかできないジーノをそのままに,青信号の道路をまっすぐに進み始めた。ロジ
ャーの大型バイクは乗用車にも負けないスピードで、ヘルメットにバイザーのついていないジーノはロジャーを風除け代
わりにしなければ目も開けていられない。おおよそこの青年には似合わないほど高価そうな代物だ。そのスピードで道
を間違えながら駅を目指して行った。
「到着ですよ,お客さん」
「やっと着いたって感じ……」
 次の列車まで時間的な余裕はあるが,ジーノには無い様だ。
「あんたねぇ,どうすればあんなに道間違えられるのよ!」
「ジーノちゃんがちゃんと教えてくれなっ……」
「あんな状態で喋れるわけ無いじゃない!」
 いつもガレージで交わされる口論だが公共の場で行われるにはいささか声が大きすぎるようだ。通りすぎる人々も振
り返る中一人の少女が声を掛けて良いものかと戸惑っている。その状況に気付いたロジャーは何とかジーノなだめよう
と必死だ。
「とりあえずさ,バイク降りようよ。ね?」
 そう言ってロジャーは周りを見渡して見せた。それでやっと自分たちが周りからどんな目で見られているかに気付く。
「えっと、話終わった?」
 やっと収まったようなので今のうちに話し掛けなければならない、そんな覚悟で少女はバイクから降りている二人に話
し掛けた。
「あ,君がコヨミちゃん? こんにちは」
「こんにちは……」
 小柄な女のコだ。それがロジャーの最初の印象だった。ジーノと比べても頭二つ分小さい。
「次あたし乗せる時は60キロ以上出さないでよね……」
「まだまだその二倍以上出るんだよ」
「聞きたくない」
 ジーノが機嫌が悪そうに睨みつけた。ロジャーはそれに構うことも無くもう一度バイクにまたがり、黒いヘルメットをか
ぶった。
「それじゃあね」
 そう言うと明らかに先ほどよりも速いスピードで道路を疾走して行った。
「お兄さんいたっけ?」
「そんないいもんじゃないよ」
 出来るだけその話題に触れないようにしながらジーノは駅のホームに向かった。



 キャリアーリグはACの運搬を目的として創られた。それゆえ戦闘用のコンバットリグに比べ二倍以上の巨大さを誇
り,その自重を支えるためにホバーではなく,無限車両が採用されている。ただ、ACと違い企業側からのカスタマイズ
に対する制限は少なく,レイヴンが個人で所有する物は大型のホバー推進となっている物も少なくない。
「じゃあ俺は何の目的で作られたんだ……」
 俺は煙草を吹かしながらデスズブラザーを見上げていた。ここは禁煙スペースだが誰も気にすることはない。格納庫
はそう呼ばれるのが不思議なくらい広く騒がしい。買うとしたらいくらになるんだ? AC二機じゃあ事足りねぇだろうが
な。金、って言ってもコームか。それにだったら困って無いしそのうち買ってみるか。気ままに世界中を走らせながら仕
事をこなす。悪くねえ。
『レイヴン。そろそろACに乗ってくれ。目的地までもうすぐだ』
「了解だ」
 誰にとも無く言ってみる。これ以上は辛い。これ以上夢の事を頭に押し込んでいるのは拷問みたいに辛い。俺が作ら
れた人間だってのは間違いない。何の目的で? しかもレオス・クラインの指示で?じゃあ俺は……。違う! やめろ!
 答なんか出やしない。もう考えるな!
『レイヴン早くしてくれ』
 ……もしかして俺に電話した奴と同じ奴か?……どうでもいい。膝を折り屈んでいるデスズブラザーが俺を見下ろして
いる。今日も頼むぜ。俺はリフトへと向かう。今日も俺は戦う。



「出撃する」
 格納庫が開きその中からデスズブラザーが現れた。廃棄された地下都市特有の薄暗さに支配されたビル街に赤い
目だけが浮かんで見えた。微かに明りが灯る電灯はまだここに電気が通っている事を知らせてくれる。
 レーダーに敵影は映らない。しかし、ライフル弾がデスズブラザーの装甲を叩いた。既に敵の射程内のようだ。
「スナイパー……。軽いな。ローバストか」
 デュライは敵の目星をつける。ローバストはACと同様に右腕にアタッチメントポイントを持つ人型MTである。MTとし
ては極めて高い戦闘能力を持ち、意外なほど生産性も優れている。
 デュライは火器をミサイルに換え、機体を加速させた。時折発射されるライフル弾を左右にかわしながら遂に射程内
に捉える。中型ミサイルポットの発射口が開きミサイルが発射された。白煙をなびかせミサイルがローバストの右腕、
頭部を吹き飛ばす。
「チッ。はめられた」
倒れこむローバストを眺めながらデュライはそれが罠であった事に気付いた。レーダーには前後に複数の赤い点が
点滅している。動きが速い。同系のローバスト、もしくは飛行メカか。
 デュライはグレネードキャノンを展開させた。左右をビルに挟まれているのは敵も同じ。なら当然回避は難しい、爆炎
を吹き上げるグレネード弾なら尚更だ。
 機銃がデスズブラザーの黒い装甲を叩く。うるさくも規則正しい金属音を無視してグレネード弾を発射した。熱を帯び
たグレネード弾が火球となりMT群に命中した。爆炎を吹き上げその衝撃に辺りのビル群のガラスは一斉に割れ辺り
に降り注いだ。背後からの機銃を機体を左右に動かすだけで軽くあしらいながらレーダーを確認した。命中した中心の
目標以外はまだ健在で攻撃を続けている。
「ローバスト、ガトリングタイプだな。頑丈なわけだ」
 デュライはもう一度前方にもう一度グレネードを発射させ機体を反転させた。そこからは火線が続き、その先には人
型の影が見える。こちらが振り向いたのに気付きもせず接近しているのはMTの光学カメラの性能のせいだろうか。そ
れともコンピューターの映像処理能力のせいだろうか。
「どうでもいいがな」
 デュライは機体を加速させ一気にMTに肉薄した。高出力ブースターによって得られるスピードは重量級とは思えない
もので、ローバストのパイロットは無力なガトリングランチャーを回転させながら叫び声を上げた。彼の目にはスローモ
ーションで見える。目の前の漆黒のACが背後の爆炎で縁取りされ、赤いバイザーの奥の二つの赤い目が光り、その
左腕から金色の光が伸びたのが。そしてコックピットのある胴体に光を差し込んだ。
バシュ
 蒸気が噴出す様な音。一瞬でコックピットの存在する胴体が蒸発する。操縦者を失ったローバストはバランスを失い
倒れこむが、それをデスズブラザーの左腕が支えた。それを盾に目の前のローバストに突進する。その動きを止めよう
と放たれる機銃は味方であったローバストに命中するだけでデスズブラザーに命中する事はない。そのまま体当たりを
くわえ、ビルに押し付ける。ビルに減り込みガトリングランチャーを振り回しているがそれでもデスズブラザーはブースタ
ーを止めない。甲高い音。デュライはバックブーストでそれを回避する。それはちょうど機体を自由にしようともがいてい
たローバストに命中し爆炎を吹き上げた。
「今度はグレネードか」
 視界の先には右腕が不釣合いなほど巨大なグレネードランチャーに換装されているローバストが煙に身を隠してい
た。デュライはFCSのロックオンサイトを解除し、代わりにレーザーサイトを表示させた。
 通常火器は敵をサイト内に敵を収めることにより敵に対する攻撃の命中精度を上げるのだが、肩に固定されている
ロケット等のロックオンが不可能な火器は、レーザーサイトという予測弾道を表示するものを使用する。通常ロックオン
は敵の中央に目標を据える。これは当然目標に命中しやすくするためだが、裏返せばこれは本当の目標に飛ばないと
いう事にもなる。そのため熟練者の多くはロックオンに頼らない射撃を行うのだ。
 デュライはサブマシンガンをローバストのアタッチメントポイントに向けて発射させた。きっちり十発目が命中したところ
でアタッチメントポイントが火を吹きグレネードランチャーが外れた。無力化し、右往左往しているMTを無視して機体を
前進させる。
 デュライは戦闘モードを解除しようとはしなかった。彼が倒した敵は七体。これだけだったらガードでも十分殲滅でき
たはずだ。ということはまだ敵は潜んでいる。それも機動力が低いローバストの代わりに前衛で戦闘できる高機動兵器
だ。案の定ビルを曲がるとその角からミサイルが飛んできた。デュライはデコイは射出しバックブースターを吹かした。
複数のミサイルはデコイにすい込まれ爆発する。
「六発。ACか?」
 レーダーに捉えてはいるがまだ目視できないため、デュライはコンピューターの音声をオンにした。
『ACを確認しました。<ジュミニック>です。オールドザムアリーナ68位。標準武装はハンドガン、小型ミサイルランチ
ャー、高出力ブレード。標準四脚機体です。ACを確認しました。<ロクフォファー>です。オールドザムアリーナ74位。
標準武装は標準スナイパーライフル、高効率ブレード、小型ロケットランチャー、ジャミングロケットランチャー。高機動
無脚タイプです』
「二機。さっきミサイルを撃ったのがジュミニックか」
 ビルに身を隠していたデスズブラザーにライフル弾が命中する。レーダーには映らない。レンジ外からスナイパーライ
フルで狙撃しているのだろう。デュライはそれを無視してジュミニックに向けて機体を加速させた。
 無脚とはフロート言われる真機軸の脚部タイプである。常に地から離れており、内蔵されたブースターを使用する事
により、重量級のオーバードブーストに匹敵する機動力を発揮することが出来る高機動戦闘用脚部で、デスズブラザー
の機動力では捕捉出来ない。その特徴から完全な支援機とふんだのだ。ならばこちらから追いかけても意味がない。
むしろあちらが仕掛けてきたところを叩いたほうが効率がいいのだ。
 ジュミニックは持ち前の機動力で距離を離しながらミサイルを発射する。しかしそのミサイルはデスズブラザーに掠る
事もない。重量級である事を感じさせない急な動きで見事にかわしきっている。
「飛べ」
 デスズブラザーのミサイルポットからミサイルが飛び出す。左右をビルに挟まれ、また装甲の薄い四脚ACはそれをジ
ャンプしてかわすしかない。しかし、それがデュライの狙いだった。予想通りジュミニックはそれをジャンプで交わした。
しかしそれよりも早く構えられたグレネードランチャーが火を吹いた。吐き出された火球は先程までジュミニックがいた
道路に着弾し,炸裂した熱エネルギーが爆発という形で表れその爆風でジュミニックはデスズブラザーの方向に押し出
された。
「やっと会えたな。うれしいよ」
 表情を変えることなく面白がる。赤い目に見下ろされるのを恐れるようにジュミニックはハンドガンではなくサブマシン
ガンを連射しながら距離を離すがあまりにも近過ぎた。FCSによって確実にロックオンされたグレネード弾が放たれ、
爆発。着弾したグレネードは四脚ACの薄い装甲を容赦無く抉り炎を吹き上げた。
バジッ
 小さな衝撃の後ノイズが走り、ロックオンが不可能になった。ロクフォファーのジャミングロケット弾だ。ジャミングロケ
ット弾は弾頭に電子機器を使用不能にする強力な電磁波を発するナノマシンを搭載した特殊ロケット弾だ。ACは通常
兵器では考えられない電子的機密性を持っているがFCSに異常をきたすには十分な効果を持っており、電子的機密
性の低いMTならば一撃で行動不能に陥ってしまう。ナノマシンの寿命が短いのが最大の難点だが、電子機器の塊と
言える近代兵器にとって天敵と言えた。
 デュライはノイズだらけのディスプレイを睨みながらトリガーを引いた。火球がもう一度ジュミニックに吸い込まれ爆発
する。炎に包まれながらも尚も動こうとするジュミニックにトリガーを引き続けた。時折背後にロケット弾が命中し機体を
揺らすが気にはしなかった。六回トリガーを引いたところでジュミニックが爆発を起こした。ジェネレーターの搭載されて
いたコア部分は見事に吹き飛び、他の部分も赤く赤熱し熱を放っていた。
 デュライは機体を旋廻させる。その視界の先には地から浮いているACがスナイパーライフルを乱射していた。味方を
やられた事により激情に駆られているのだろうか、持ち前のスピードでこちらに接近してくる。今だロックオンは出来な
いが、サブマシンガンを連射させる。レーザーサイトすら使用できないため集弾が悪いが数発が確実に命中し、装甲を
削っていく。それに構わず反撃とばかりにロクフォファーは小型ロケットランチャーを連射してくる。小型とはいえミサイ
ルとは比べ物にならない弾速のためその威力は高い。しかし,デスズブラザーの重装甲はそれを受け続けながらも余
裕を見せていた。
「玉砕覚悟ってわけか。悪いが死なないぞ俺は」
 グレネードランチャーを構えさせそれをロクフォファーの手前のビルに発射した。爆発し飛び散った破片がロクフォフ
ァーを襲う。弾丸ほどの速度を与えられたコンクリートの破片が薄い装甲を引き裂き、その機体を埋めてしまった。動き
が封じられたロクフォファーのフロートをブレードで破壊した。腕を動かし瓦礫を退かそうとしているが無駄な事だ。
「ACを二体破壊した。他に敵影は見えるか」
『いや、あんたが残したローバスト以外に戦えそうな物は残っていない。作戦終了だ。帰還してくれ』
「了解だ」
 今だもがいているロクフォファーを無視しその場を後にする。思ったよりグレネード弾を撃っていた様だ。街中が火を
上げている。これではどちらにせよ輸送車両が通れないのではないだろうか。デュライは興味無さそうにそれを見渡し
た。大体30000コームの黒字か。そんな事を考えている。
 その途中で無力化しているので生かしておいたローバストが回収班を待っているのだろうかその場で立ちつくしてい
た。こちらの存在に気付き距離を離しているその右胸にINDIESと書かれているのが見えた。
「またか……」
 気の変わったデュライはオーバードブーストを始動させた。



「5000000コーム?」
「キャリアーだと高いやつでそのくらいだな。安いやつだと3000000ぐらいか。コンバットにコンテナをつけるってのも
あるがはっきり言って長距離移動するのには向かないな。ワンコンテナのハンガーシステムその他で、4000000くら
いのがおすすめだな。当然余裕があるんだったら最高級のやつに越した事はないけどな」
 思ったよりずいぶんと高い。4000000か。しばらく無理な換装は無理だが、買えない事はない。今すぐにでも買って
見るか。いや待てよ、そんなに焦る事は無いだ。今まで通りマンションを渡り歩いているので十分じゃないのか。
「それにザム・Jもあいつらを始末したのがあんただって知ったら少しぐらい値下げしてくれるんじゃないか」
 そりゃあいいな。この世の中そういうのも悪くない。
「じゃあ聞いてくれよ。値下げしてくれますかって」
「聞くだけならな」
 そう言って男は喫煙室を出ていった。全ての部屋に電話があるわけではないのか。このリグは安物か?
 携帯ナーヴを覗いてみる。俺は……5563226コームか。結構余裕あるな。これだけあっても高いパーツを買い過ぎ
るとすぐ無くなっちまうんだがな。リグを買うのは良い機会かもな。
 ……携帯電話を取り出す。ここで使えるのか?慣れた番号を押す。あいつは何時も出られるわけじゃないがかけな
いことには話にもならないからな。電子音が数回繰り返されたところでそれが途切れた。
『なんだよ。今忙しいんだ』
 出た出た。忙しい割りにはずいぶんと早く出たな。
「本当に忙しい医者は電話に出れないと思うんだがな、ニコライ。医者の情報網で調べて欲しいものがあるんだがな。
頼めるか」
 ……少し間がある。考えているか,一緒にいる女に誰からか聞かれているか、どちらかだな。
『で、何だデュライ。はっきり言って期待はしないでくれよ』
 それは分かってるさ。息を整えて出来るだけ完結にいう。二度も口にしないように。
「エデン、ヘヴン。この二つのプラントを調べて欲しい。何のプラントかは分からない。地球にあるか火星にあるかも分
からない。いや、多分地球だな」
『エデンにヘヴン? またお前の過去の夢ってやつか?』
 ……そうだ。出来るだけ考えたく無いがな。
『おい、なんか言えよ』
 しかし本当に遠慮の無いやつだ。
「そうだよ。頼む」
『そうか。調べておくよ。お前から電話なんて珍しいからな』
 ピッ。電話が切れた。携帯電話から低い電子音が聞える。それが三回なったのを聞き終わると俺は電話を切った。
 ……俺自身なぜこんな事を頼んだのか分からない。俺は自分が思っている以上に参っているのかもしれない。戦って
少し気が晴れたがな。
「レイヴン、聞いてきたぜ」
 男が喫煙室に入ってきた。なぜかその口にはタバコがくわえられていたが、気にするほどの事じゃないか。我慢しき
れずに入る前に火をつけたか、くわえたまま行って戻ってきたか。
「きっちり定価だってさ。いやぁうまくいかないな」
 まあ、分かってた事だけどな。
「そうかい。リグのカタログぐらいはタダにしろって言ってくれ」



 ロジャーはカードリーダーにカードを通した。そこに表示された数字は僅かなもので今回のミッションはあまり実りのあ
るもので無かった事がわかる。
「ロジャーよぉ。少し撃ち過ぎじゃないか。考えも無しに撃つとこうなるんだぜ?」
 バーメンタイドがその数字を指差しながら言う。ロジャーは新しく購入したスナイパーライフルを撃ち尽くしてしまってい
た。
「だって何発撃っても戦闘機に当たらないんですよ。FCSのせいじゃないかなぁと思うんですけどね」
「じゃあ買うか? 良いやつ」
 ロジャ−はカードリーダーに表示されている赤い数字の睨み肩を落とした。
「しばらくこのままです」
 換装するだけでもコームを取られる事を考えるとそれは無理というものだ。ロジャーは戦闘経験が少ない事もありどう
しても無駄弾が多くなってしまう。それゆえ今だ十分なコームを得られないのである。
「ジーノちゃんまだ帰ってきてないんですか?」
 ロジャーは指にはめたキーホルダーをくるくると回しながらバーメンタイドに聞いた。猫が鉢巻をしたような良くわけの
分からないマスコットが付いているが可愛い物ではある。ただし本当に何なのかは分からない。
「なんだそりゃあ」
「お土産です。ジーノちゃんの」
 バーメンタイドが聞きたかったのは別の事だが改めて聞く気にもならなかった。



ACname ロクフォファー
ravenname シークネイル
『オールドザムアリーナ73位のレイヴン。業界では珍しく女性である事が確認されている。遠距離での高機動戦闘を得
意とする。ミッションにおいてはジュミニックに乗る兄のシークザインと共同であたり高い成功率を誇っており、クライア
ントの信頼は高い』
俺が戦っていた時こいつは74位だった。多分兄貴が死んだんだろう。それでもこのサイトには今でもその兄が存在し、
こいつと一緒に戦っているように書かれている。
遠距離戦が得意だってのに接近してきたのはわかる気がする。よりによって同じレイヴンになったんだ。よほど仲が良
かったんだろうな。そいつが死んだんだ。……殺したのは俺だがな。
「レイヴン。着いたぜ」
「ああ」
 携帯ナーヴの中で広がる何か嫌な気配を電源と一緒に消した。それがレイヴンだ。綺麗事を語っていたらやっていは
いられない。レイヴンであるならば弱い事が罪だ。だから俺は生き続けている。たとえ造られた力でもそれが事実だ。
 リグの狭い階段を降りていく。俺はこれが今まで生きてきた人生ってやつに似ているような気がした。


AC                 
RA                  

HEADZHD−MO/EGRET
COREZCX−F/ROOK
ARMZAN−707/E
LEGZLN−9001/A
BOOSTERZBT−Z1−ARTERE
FCSDOX−ALM
GENERATORHOY−B1000
RADIATORRRX−COT−GK10
INSIDEINW−DEC−MQ2
EXTENTIONBEX−BB210
BACK−RZWM−M55/6
BACK−LEWG−GN44−AC
ARM−RZWG−AR−K
ARM−LELS−7880


 標準仕様。ただし、預けていたガレージの物資不足によりマシンガンが小型のサブマシンガンとなっている。また、火
力弱体化に備えブレードが高出力型のままになっている。

AC                    
RA               

HEADZHD−GE/OHR
COREECM−XR00
ARMZAN−303/S
LEGZLF−TROS/INTS
BOOSTEREBT−V55
FCSDOX−ALM
GENERATORHOY−B999
RADIATORRPS−MER/SA
INSIDENONE
EXTENTIONBEX−BRM−02
BACK−RERM−TE3000
BACK−LEWM−S608
ARM−RZWG−AR/K
ARM−LELS−7880


 近接戦闘を重視した軽量四脚。アリーナ仕様ではないため標準仕様であるハンドガンからサブマシンガンに換装され
ている。
 ミサイル攻撃から機動力を活かした高速接近の後ブレードの一撃を加える戦法を用いる。しかし今回は市街戦であ
ったため機動力を活かせずグレネード弾を連続で被弾する。低出力のラジエーターであったためジェネレーターが過
熱、爆発した。

AC                  
RA               

HEADEHD−NIGHTEYE
COREECL−ONE
ARMZAN−202/TEN
LEGZLR−TII−BUD
FCSVERTEX−750/W
GENERATORGR−XR/SEED
RADIATORRBG−CM6
INSIDENONE
EXTENTIONNONE
BACK−RZWG−S/60
BACK−LZWR−R/OCTOPUS
ARM−REWG−SRF−9
ARM−LELS−3443


 典型的な高機動型の無脚AC。積載能力に劣りながらも火力を重視したため装甲が決定的に犠牲となっている。仕
様はアリーナとほぼ同じである。
 本来はミドルレンジで常に機動力による優位を保ち、競り勝つ戦闘スタイルを用いるが、今回は兄であるレイヴン、シ
ークザインが殺害された事で激情し、特攻を仕掛ける。前面戦闘能力ではデスズブラザーに圧倒的に劣っていたため
脚部を破壊され戦闘能力を失った

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