第四話 朝日が伸びて ゴリラのようなMTが火を吹いている。<リーンエイプ>だ。距離に応じてリニアキャノン、プラズマキャノンを使い分け る事ができ、高い機動力を持つ高性能MTである。しかし、今回は相手が悪かったようだ。それは天然の闇と同じ色を 体に纏い夜に溶け込んでいたが、赤い目が自分の存在を誇示していた。 『なんだ、こいつは! いくらACといってもこれは異常だぞ!』 その言葉通り、実際にはACすら圧倒できるはずのリーンエイプの群れはすでに五十機を破壊され、残り四機を残す のみとなっていた。 『ぐあぁ!』 さらに一機。 『助けてェ!』 さらにもう一機。 『どうなってるんだ……』 彼は仲間が次々と殺されるのを見ている事すら出来なかった。 敵はすで弾を撃ち尽くしているはずだ。それはすなわちブレードだけでいまだにこちらを破壊しつづけているという事 だ。 『冗談じゃない……。仲間の死を無駄に出来るか!』 彼は決心した。この身に代えてでも奴を倒す。 『聞け! 私はなんとしてでも奴に取り付き、プラズマ加速装置を暴走させる。そうしたら私の機体を撃ちぬけ!』 『そんな! 馬鹿な事を言うな!』 正気とは思えないその提案に男は怒鳴り返した。 『何を言っている。我々<インディーズ>の誇りにかけてこんな汚点は許されん! そのためにはこの命惜しみなく捧げ てくれる』 『…分かった。だがその役は俺も受け持つ! 生き残るのは運が悪い方だ! いいな!』 その心強い返事に彼は口の端を上げた。 『了解だ!』 二人は機体を背中合わせにして漆黒のACを探す。レーザーブレードしか武器が無い以上絶対に近づいてくる。その ときが勝負だ。 暗闇の中で赤い光が揺らめく。奴だ。 金色の光が伸びる。レーザーブレードを発生させているようだった。 『どうやら私の方が運が良い様だ。後は頼んだぞ!』 彼は機体を後退させ、それをかわす。光が通った後には陽炎が残り、装甲の表面がチリチリと赤熱する。しかしそれ に構わず、リーンエイプの長い腕をACに巻きつけ、プラズマ加速装置が暴走させる。 しかし漆黒のACはオーバードブーストでMTを引きずったまま急加速を始めた。そしてもう一体のリーンエイプに叩き つける。 『くっ……! 放すものか!』 その強い意思も虚しく、漆黒のACはエクステンションのバックブースターで一気に突き放す。結局そこには二機のリ ーンエイプが重なって倒れている形となった。距離を離した漆黒のACは肩のグレネードキャノンを展開し始める。 『まだ……』 その言葉をかき消した甲高い音。それは二機のMTに吸い込まれていった。今までに無いほどの爆発があたりの 木々を、大地を揺らす。そしてそこに残されたのは漆黒のACだけだった。 「出来るだけ弾薬は節約したかったんだがなぁ。思ったより粘ってくれたよ……」 漆黒のACのコックピットに響く声。それはデュライのものだった。その言葉通り実際にはグレネード弾は後四発、マシ ンガンも数十発残されており、その気になればあの時一網打尽に出来たのだ。 漆黒のACもレイヴンズテストの時とはだいぶシルエットが違うが間違い無くデスズブラザーであった。その脚は重武 装と高機動が両立できる逆関節に変更されていた。 大体70000コームの黒字か、そんな事を考えている。しかし、今回は彼も疑問に持つような事実がそこに転がって いた。ぼろぼろになっているリーンエイプの装甲にはINDIES。インディーズと書かれていたのだ。 「またか。前の時もそうだったが……」 デュライは前回の戦闘を思い出していた。あんな辺境の廃棄された地下都市にあんな大部隊は考えられない。そう、 いままででは。 「確か支援していたパトロンを失って、自己崩壊したって聞いたがな……。なぜ今になって」 彼自身インディーズとの戦闘経験はあったが、今戦ったそれはかつてよりも明らかに強化されていた。新しい、しかも さらに強力な後ろ盾を手に入れたのだろうか。 「こりゃあどうやら何かあるな……」 張り付いた無表情を崩すことなく、その場を後にした。 もうすぐ夜が明ける。地平の向こうで太陽がいくつもの光の輪をつくっていた。 いつものようにジーノはシャッターを上げ始めた。これは彼女の仕事であった。始めは育ち盛りの女の子にさせる仕 事じゃない、と頻りにぼやいていたが慣れれば慣れるものだ。しかし、目の前には間違い無く見慣れない物が置いてあ った。 「これ、あいつのバイク……」 きょろきょろと見渡すと案の定栗色の髪の青年が椅子にもたれ掛かったまま寝ていた。しかし、椅子はロジャーの動 きに合わせ前後に揺れており、今にも大きな音が聞えてきそうだ。 「いてっ!」 予想通り後ろに倒れ、後頭部を強く打った。そのままの体制で頭を押さえ目に涙を浮かべている。 「アハハ……。何やってんの」 昨日と全く同じだった。それがどうしようもなくおかしくてジーノは笑った。相手は憎いレイヴンだが、それを忘れてしま うほどにおかしかった。 「あ、ジーノちゃん、おはよ。なんか最近朝頭が痛くてさ。風邪薬とか無い?」 ロジャーはそのままの体勢で挨拶ついでに冗談を口にした。 「アハハ、バカは薬じゃ治らないよ。どうしてもって言うんだったらあげるけどね」 「残念」 しかしジーノの顔から笑顔が消えた。そうだった。こいつはレイヴンだ。 「ん? どうしたの?」 それに気付いた時、ジーノはもう笑うことが出来なかった。これ以上関わりたくない。階段へ向きを変え歩いていく。 「あ、ジーノちゃん」 呼び止めるロジャーはそれでも笑顔だった。そう、今の時代少ない心からの笑顔。 「今日はジーノちゃんが好きそうなの作るから期待しててね」 ジーノはその言葉を最後まで聞くと階段を上っていった。 <反政府勢力殲滅>、<官僚護衛部隊排除>、<所属不明MT部隊殲滅>、<秘密倉庫壊滅>、<監督局部隊陽 動>……最近はこんな仕事ばっかりだ。中には敵勢力をインディーズと言い切ったものまである。どうやら奴らは完全 に息を吹き返したようだ。それもかつてよりも活発になっていやがる。 後ろにいそうなのはジオ・マトリクス、エムロード、バレーナ、後は少し考えられないがコンコードってところだな。 とりあえず仕事を決める。倉庫内の物資の破壊。かるめだな。出撃は今夜、まあ急ぎじゃないからな。やっぱりインデ ィーズの倉庫なのか? 「どうする、レイヴン。もう機体を換装するか?」 不意に話し掛けられる。ずっと後ろで見ていたのか。 「ああ、脚を<ELC−D1S1>、ミサイルを<EWC−GN44−AC>、FCSを<LODD− 8>に換えてくれ。出撃は今夜だけどな」 倉庫だったら機動力はあまり必要無いだろう。要はある物全てをぶっ潰せばいいわけだ。 「わかった」 極めて簡素な会話。それが整備士連中とレイヴンの間にある全てだ。これ以上の会話は有り得ない。 まだまともな朝飯も食ってない。今日は外食かな。財布の中身には100ドル札が一枚。いつもみたいに食い過ぎない ようにしないとな。 ガレージを後にする。外には季節を無視した快適な人工の風が吹いていた。 「ジーノちゃんダイエットでもしてるのかなぁ?」 「嫌われてるんですよ。あいつレイヴンがとことん嫌いなんですから」 ロジャーと若い整備士は食器を洗っていた。オムレツサラダの残った皿がまだ残されている。もちろん残したのはジ ーノだった。 「でもパンだけじゃ何時か倒れちゃいますよ。この暑さだし心配じゃないですか。なんか好きな食べ物とか知ってま す?」 少し考えて若い整備士は答えた。 「僕が知る限りじゃ甘いものかな。学校の帰りによくアイスとか買ってきますし」 「じゃあ、思い切ってでっかいケーキなんて作ろうかな」 「いいですねぇ。再来月の誕生日にでも作ってあげたらどうです」 「そっか、その間に練習しないと」 「結構余裕あると思うけど」 「いやいや、絶え間無い努力が実を結ぶ時、料理の味は光るんだよ」 「そんなもんなのかねぇ」 会話が弾む。普通レイヴンと整備士の間で交わされる事の無い内容の会話だが、それは通常友人同士で交わされ る会話としては普通のものだった。 「ベン! いつまでそうやってんだよ! 早く手伝え」 「そっちが押し付けたんじゃないですか」 反抗心を剥き出しにした言葉は残念だが彼には聞こえない。 「あ、後は俺やっときますから行っていいですよ」 元々俺の仕事だし、とロジャーは言って仕事に戻るように言った。 「はい、それじゃ」 ベンというらしい若い整備士はガレージに戻っていった。どうやら押しの弱い性格らしい。おそらく何かある事に先輩 の整備士達に仕事を押し付けられているのだろう。 「俺も仕事仕事っと」 食器を洗い終わるとロジャーは端末に向かう。昨日は二つだったが少しは増えているだろうか。お願いだから少なくと も三つ。パスワードとIDを入力する。さて、どうだ。 「二つ……ね」 <輸送物資護衛>、<武装集団迎撃>の二つがそこにあった。文句を言ってもしょうがないので詳細を見る事にし た。ロジャーは成功報酬の多い、武装集団迎撃を最初に見てみる。 client バレーナ 『我が社の輸送中である物資をつんだ輸送車両が民間の不法武装集団インディーズに狙われている事がわかりまし た。輸送されている物資は特別重要なものではありませんが、最近頻発している彼らの襲撃に目を瞑る事は出来ませ ん。つきましては我が社の輸送車両を攻撃してくる勢力を全て迎撃してください。また、輸送車両を破壊された場合、報 酬を減らさせていただきます。敵部隊の戦力は大した事はありませんが確実にこなしてください。以上。朗報を期待して います』 報酬は40000コーム。前回の10000コームと比べると一気に飛躍した感じだ。しかし逆にいえば前回に比べ危険 性も高いということだろう。駆け出しのレイヴンにはある意味ふさわしいものとも言えるが。 「イエスっと」 しかしそこまで頭の回らないロジャーはすぐに契約を結んだ。あまり時間は無い。ロジャーはすぐにバーメンタイドのと ころに向かった。 ACの足が地に付く度にコックピットに振動が伝わる。それでも自前のパイロットスーツのおかげで昨日の様に尻が痒 くなるような事はない。しかし、すでに一時間近くこの状態が続いており、なにもしていないのに疲れが溜まっていた。 フエーリアエのすぐ横には輸送用車両が走っている。小さく見えるがそれはACの目を通しているからで、実際は一般 の車両よりずっと大きい。 『レイヴン。敵勢力を確認しました。しっかり護衛してください』 輸送車両からの通信だろうか。若い女性の声が敵勢力の存在をロジャーに知らせた。 「はい、レーダー外ですけど目で見えてます」 ロジャーのその言葉を言い終わる前にレーダーに点が見え始めた。しかし、敵は比較的上空を飛んでおりどちらとい えば紫色の点に見える。前方に三つ。他にはまだ確認できない。 ミサイルの射程内に入る。とりあえず一機落とす。二回ロック音が鳴ったところでトリガーを引く。それと同時に敵機か らもミサイルが発射された。どうやら射程距離は同じようだ。 ロジャーはフエーリアエを右に歩かせ、左に急加速させた。その動きに対応しきれずにミサイルは湿った地面に命中 し爆発した。逆に、直進し続ける戦闘機は自らミサイルに突っ込む形となり墜落する。 戦闘機の下を潜りミサイルのロックを再開する。しかし、その直後背後から被弾の衝撃を受ける。振りかえるとそこに はぼろぼろになった戦闘機から逆関節のMTが砲身を伸ばしていた。 「え!? なにそれ? 合体メカ?!」 正しくはその逆であり、状況により分離する事により幾多もの運用方法を持つ特殊MT<クレイドル>である。一応M Tに属するが実際は二つの兵器を無理やり組み合わせたもので、それぞれの能力は中途半端になってしまっている が、それを補って有り余る汎用性を持つ。 逆関節MTは完全に姿をあらわし、フエーリアエにライフルを乱射する。その威力はフエーリアエに装備されているラ イフルより強力なものであったが、やはりその装甲の前には大した威力であるとは言えなかった。動きも遅い。 ロジャーはライフルを連射させつつ接近し、ブレードで砲身を両足ごと切断した。できるだけ人を殺したくはない。 「後二機、いや、四機」 機体を反転させ、残り二機に向かいフエーリアエを加速させる。その先ではクレイドルが輸送車を攻撃していた。輸送 車もその大きさにふさわしくそれなりの装甲がなされているだろうが、長くは持ちそうにない。 改めてクレイドルの背後からミサイルを発射する。二基のミサイルがクレイドルの戦闘機部分に命中し破壊したが、 分離した逆関節MTが着陸を待たずしてライフルを輸送車に連射する。 『レイヴン、早くしてください!』 そろそろ危険なのだろうか輸送車の通信士が急かす。しかし、フエーリアエの火力ではクレイドルを満足に破壊する 事が出来ず、小さい攻撃を繰り返すしかない。 「そんなこといっても…」 逆関節MTを腰からレーザーブレードで両断しながらも、全く余裕がない。その間にもクレイドルは悠々と空を飛び、ミ サイルを飛ばしている。 ミサイルをロックしている時間ももどかしく、クレイドルにライフルを連射する。戦闘機部分が破壊され、MTが落ちてく る。その間に落下地点に近づくと着地したMTをブレードで攻撃する隙も与えずにコックピットを避け破壊した。 『レイヴン! 増援です。早く何とかして!』 「うっそお!」 しかしレーダーには二つの点が紫色をしていた。またあいつらだ。しかし、先程の戦闘で距離が離れてしまい、ミサイ ルの射程外であった。ロジャーは機体を加速させながらコアに直結している大型ブースターに火を入れ始めた。オーバ ードブースト。 ゴウン! 一気に体が重くなる。コックピットがサウナになった様に熱い。まるで焼けた砂がコックピットに流れ込んでいるよう だ。 しかし、それよりもこの前と同じような感覚がロジャーを支配していた。時間がゆっくり流れる。音は聞えないがどこで どんな音がしているか分かるような感覚。まるで何度も見た映像をまた見ているような感覚。自分が体を離れACと一 体化したような感覚。 距離はどんどん縮まる。あっという間に手を伸ばせば届きそうな距離にまでなった。ロジャーは自分の手を伸ばす代 わりにフエーリアエの腕をブレードと共に伸ばした。クレイドルの真後ろを取りブレードを斜めに薙いだ。戦闘機とMTが 一気に切断され、四つの塊になって地上に叩き落された。 そのままもう一機のクレイドルの真上を取り、踏みつける。圧倒的な重量に押しつぶされ一気に地上に墜落した。爆 発はしない。パイロットが気絶したか、機体が誤作動を起こしているのだろうか。どちらにしろとりあえずのところは大丈 夫のようだ。 「あ〜、増援あります?」 『ありません。どうやらこれで全てのようです。レイヴン、感謝します』 ぼろぼろながら前進を続ける輸送車両。戦ったというのに殆ど無傷のAC。 「なんだか俺達もっと強くならないと駄目だな?」 ロジャーは機体状況を知らせるディスプレイを優しく叩きながら傷だらけの相棒を労わる。 『サクセン シュウリョウ。セントウモード カイジョ』 「つれないなぁ、相棒」 コックピット内にはオーバーロードを告げる警告音が鳴り響いている。ロジャーにはそれがフエーリアエが答えてくれ ているようでうれしかった。 何時の間にかあたりは暗く、月の白い光がフエーリアエの金属色に光沢を与えていた。 まったくよ、これのどこが倉庫だよ。どう見てもどでかい洞窟じゃねぇか。敵もMTだらけだ。これで90000コームじゃ 割に合わない。 『ACを確認。戦闘モードの再起動をお勧めします』 高性能コンピューターからの突然の言葉にデュライは思考を中断した。言われた通り戦闘モードを起動させ、インサ イドのデコイを二個撒く。とりあえずミサイルのファーストアタックを食らう心配はない。デスズブラザーの脚部は無限車 両型に換えられていたため、高い耐久力を持つがミサイルを回避する機動力は持ち合わせていないのだ。 しかし、デスズブラザーの装甲を焦がしたのはミサイルではなく、眩しいほどの光を湛えたプラズマの塊だった。 「!?」 さすがの重装甲も圧倒的な破壊力に大きく後退する。光学カメラのあちこちに残光が残り、敵の発見にはレーダーに 頼るしかない。 『ACの詳細を確認しました。<アルビノエンジェル>です。アリーナ登録無し。武装を予想する事が出来ません』 「だったら黙ってろ」 冷静に言い放し、レーダーを頼りにマシンガンを乱射する。そもそも無限車両型脚部の使用に慣れている彼はこんな 事で焦りはしない。あくまでカメラが回復するまでの時間稼ぎだ。コアに設置されているカメラに切り替えるのも良いが 暗い洞窟でどこまで信用できるかは怪しい。 新たな閃光が迫る。それを予想していたデュライは機体を上昇させ、バックブースターを吹かしそれを回避する。プラ ズマの命中した洞窟の天井が爆発を起こし、落盤の後、天井に大きな丸い窪みを作った。 カメラが回復する。落盤が収まり暗闇の中に天使が見えた。漆黒のデスズブラザーとは正反対の純白のAC。しか し、その目はデスズブラザーの様に真っ赤な光を湛えており、まさしくアルビノ、色素欠乏の天使のようだった。中量二 脚タイプでその背中には二本の太い砲身のようなものが伸びている。 ACが装備する兵器としては最大の威力を誇る<ZWX−E90/MAC>である。両肩の電極から発生させた磁場を 熱エネルギーに換え、電磁誘導によりプラズマの火球として発射させるものだ。しかし、使用するエネルギー量も半端 ではないため運用は難しく、実戦で見るのは珍しい。 デュライは今度はロックオンしてマシンガンを連射する。しかし、33mmの弾丸はアルビノエンジェルの左手から放た れる光、運動エネルギー干渉フィールドに阻まれ、白い装甲に届かない。 「ご丁寧に<シールド>装備か。エネルギーの無駄遣いが過ぎるぜ」 今度はグレネードを構え発射させる。これならばシールドの上からでも十分なダメージを与える事が出来る。だが、白 いACは飛翔しそれをかわす。洞窟には三度目になる大轟音が響き、いたるところで落盤が起こる。 アルビノエンジェルは空中で右手からパルスレーザーを発射する。赤い光が黒い装甲を焼き、水が蒸発するような嫌 な音をたてる。 上空のアルビノエンジェルにさらにグレネードを発射するが、殆ど真上のため捕捉もままならない。その間にもパルス レーザーは容赦無く装甲を焼き続けている。急所の被弾は免れているがこのままではまずい。 デュライはバックブーストで距離を離し地面に向かってグレネード弾を発射する。その爆風が空中のアルビノエンジェ ルを揺さぶり、次のグレネードは見事に命中した。しかし、それもシールドに阻まれ致命傷には至らない。 そのままデスズブラザーの真後ろに着地する。デュライは機体を高速後退させ、体当たりを食らわすつもりだったがう まくいかない。そしてそこにまるで合わせられたようにプラズマキャノンを背後に食らう。激しい衝撃と熱量がデスズブラ ザーを襲い、右肩のグレネードランチャーが誘爆する。しかしその重装甲はまだ戦闘できる状態を維持していた。 グレネード弾を撃ち、爆風で辺りの瓦礫が舞い上がっている隙に機体を旋廻させる。もう一度あれを食らうわけには いかない。 レーダーを信じ、マシンガンを乱射する。そこにはちょうど爆風を逃れていた白いACが疾走しており、マシンガンが命 中する。しかし、それに反応したアルビノエンジェルは急角度で進行方向を代え、シールドを張りつつパルスレーザーを 連射してきた。弾丸はシールドに阻まれ、その距離はどんどん縮まる。 「畜生!なんでオーバーロードしねぇんだ!」 接近してくるアルビノエンジェルにグレネード弾を放つがそれは予想していたように平行移動でかわされ、そのまま肩 のプラズマキャノンを発射され直撃する。 「プラス……」 爆風にもまれながらうめきのような声を出す。 プラズマキャノンは通常、二脚ACは移動しながら使用する事は出来ない。それはグレネードランチャーのように反動 だけの問題ではなく、エネルギー系のキャノンは当然多量のエネルギーを必要とする。そのため,二脚等の複雑な機 能を有し、その状態を維持するだけでかなりのエネルギーを必要とする脚部は、その場で一度その動きを止める必要 があるのである。当然その大きな反動も動きながらの使用を不可能としている。 しかしプラス,つまり強化人間はそれすら可能としてしまうのである。強化人間の多くは頭部にコンピューターを装備し ており、それによってACの微妙な機能制御を肩代わりするのだ。動く必要の無いラジエーターのON,OFF。センサー の自己管理。他にも挙げれば切りが無いが、それによりかなりのエネルギーの余裕が出来る。それにより,移動しなが らのプラズマキャノンの使用や,エネルギーの過剰使用を可能とするのである。中にはその殆どの機能を肩代わり出 来る強化人間も存在するが,実は強化人間の中でも特に素質を持つ者しかそのような芸当は無理なのだ。つまり,目 の前の白い天使は紛れも無く強敵としか言えない存在だ。 乱舞する白い天使。地を這う黒い死神。しかし,共にその目は赤く,同種の存在にしか見えない。飛び交う白い閃光、 赤い火球。それは洞窟の至る所を破壊し尽くし,彼らよりも洞窟が先に根を上げそうだ。 戦いは拮抗していた。機体構成上はアルビノエンジェルの方が有利だが,この場の狭さにより,その機動力を生かす 事が出来ず,デスズブラザーもその機動力の低さゆえプラズマキャノンをうまく回避できないのだ。 マシンガンが遂にアルビノエンジェルを捕らえる。次々に吐き出される33mmの弾丸にシールドが遂にオーバーフロ ーしたのだ。しかし、アルビノエンジェルも機体に叩きつけられる弾丸を申し訳程度に回避しながらプラズマキャノンを 発射する。バックブースターで機体を後退させ回避させようとするが,正確無比なFCSにその動きを読まれ圧倒的な熱 量に黒い機体を焼かれた。デスズブラザーもまたその威力の前に装甲が限界に近づいていた。 残り四発となるグレネード弾を発射する。アルビノエンジェルはそれをゆっくりと回避したが外れたグレネード弾は天 井に命中し落盤が起こる。降り注ぐ瓦礫が白い機体を叩き,姿勢を崩す。追い討ちのグレネードが発射されるが,アル ビノエンジェルは下降ブースターで一気に加速し回避した。しかし,背中から出っ張っていた二本の電極の一方に命中 し、爆発する。これではプラズマキャノンを使用する事は不可能だ。 デュライはそれでも攻撃の手を緩めず,マシンガンを連射する。それを上昇して回避すると一気にデスズブラザーの 真上に機体を配置し、下降ブースターに火を入れる。 ギギィ! 嫌な音と共に機体が大きく揺れた。 「野郎。踏み潰す気か……」 不意に音が止むが,すぐにまた嫌な音がする。ガリッとノイズが走り,メインモニタの所々に真っ黒な空洞ができる。 どうやら頭部を踏み潰され,光学カメラに異常をきしたようだ。 音が止む。それにあわせバックブースターで機体を後退させ,次の踏み付けを回避する。 目の前には高速で落下してきたアルビノエンジェル。着地の衝撃で機体を膠着させているが,パルスライフルで反撃 している。弱っている装甲を焼かれるのに構わず,グレネードを発射させた。目の前で爆炎が広がり,その熱がデスズ ブラザーの装甲も容赦無く焼く。吹き飛ぶアルビノエンジェル。さらにもう一発発射するがそれはいとも簡単にかわされ た。 ゴガァッ! 外れたグレネード弾が命中した岩場が今までに無い轟音を放つ。それがきっかけとなり洞窟全体の崩壊が始まっ た。至る所で岩が崩れる音が響き,瓦礫が落ちてくる。アルビノエンジェルは迷いもせずにその場を後にした。無限車 両とは比較にならないスピードで加速し、遂には見えなくなる。 「まいったな、おい」 尚も轟く崩壊の音。それをBGMに機体を出口に向かわせる。ガタガタと瓦礫の当たる音が聞える。今は重装甲を信 じるしかない。いや、それよりも先にこの洞窟が埋まってしまうかもしれない。しかし,そんな状況でもデュライは無表情 を崩さなかった。 オーバードブーストを起動する。彼はこんなつまらないところで人生を終わらせるつもりは毛頭も無かった。 日が射している。すでに朝だが,ロジャーが寝始めてまだ三時間しか経っていなかった。パイロットスーツのままその 上着を毛布代わりに掛け、冷たい床で横になっている。 いつもならジーノがシャッターを上げる時間だが,他のレイヴンが換装を依頼しているためすでに作業が始まってい た。普通なら起きてしまうような大声,作業音が飛び交う中,よほど疲れているのか起きる気配は全くない。今日は朝 飯なしか……と整備士がぼやくのも全く気にせず, いや,気付きもせず足りない睡眠時間を貪っていた。 作業が一段落したところでバーメンタイドは今度こそロジャーを起こす事にした。その手にはスパナが握られ,もしも の時に備えられている。 「おい,ロジャー。いいかげんにしねえか。邪魔なんだよ」 その声に反応する事はなかった。そしてバーメンタイドは少し早いが最終手段に訴える事にした。スパナを持った手 をロジャーの顔の真上で止める。そしてしっかり狙いを定め,手を離す。 それは見事に頭に命中した。命中したスパナがズルズルと滑りカチャンと音をたて床に落ちる。ロジャーは頭をおさえ 悶絶していた。 「いいかげん起きたよな?さあどいてくれ」 「三回目ですよ〜。他に方法無かったんですか〜?」 「何の話か知らねぇけど他に方法は無かったな」 観念したロジャーはやっとの事で起きあがった。ズキズキする頭に鉛が詰まっている様に重い。バーメンタイドもさす がにやりすぎたか,と気にしているスキンヘッドを掻いた。 「何時ですか?」 「その事なんだがな、少し頼みたい事があんだよ。朝早くから仕事だろ? このままじゃジーノの やつ遅刻確実なんだ よ。バイクで送ってきてやってくれないか?」 なんでもジーノは学校に行きながらこのガレージで働いているそうだ。しかし,しっかりと給料をもらっているらしく,手 伝っている訳ではない様だ。 「別に構わないですよ。俺もかなりお世話になっちゃってますし」 そう,すでに四日お世話になっていた。すでにロジャーの存在は不自然ではなく,不思議と和んでおり気にする者は少 ないが。 「じゃあ頼む。そのうち降りてくると思うからよ」 「いらないよ」 その会話にジーノが割って入った。 「走ってけばなんとかなるから」 「ならねぇよ。黙って送ってもらえ」 「あのね、おじさん。少しぐらい遅刻したってなんて事無いの」 「ジーノの場合少しじゃねぇだろうに。塵も積もればなんとやらだぞ」 「そういうこと言う…?」 「はい、ジーノちゃん」 作業用のヘルメットを持ったロジャーが立っていた。相変わらず頭を押さえている。 「今からで間に合うかな?」 「う、うん」 「じゃ、行こ」 即決といった感じでロジャーはバイクに向かった。多分今までの会話の殆どが頭に入っていないのだろう。しょうがな くジーノはそれについて行った。 その頭どうしたの? 親方のスパナアタックを食らっちゃってさ…… 「(はたから見れば仲良さそうなんだがなぁ……)」 気難しい姪の御守を単純なレイヴンに任せ、叔父は作業を再開した。 アルビノ,アルビノ,アルビノ,アルビノっと。見つけた。 ACネーム アルビノエンジェル レイヴンネーム ナイツ 『ミッション成功率100%を誇るレイヴン。アリーナ参戦経験は無いがかなりの腕前を持っている事がわかる。機体を 真白に染め上げ,火星でもその戦闘が確認されている。しかし,その知名度は低く,特に民衆の間では全く無いと言っ ていい。かなり前からレイヴン活動を行っているらしい』 ナイツか。覚えておくぜ。……ナイツ?……ナイツか。なんか頭に引っかかるがどうでもいい。 しかし,俺のデスズブラザーをここまでするなんてどんなやつなんだ?黒い塗装が焼け焦げ, 所々鉄の色がはみだ している。両肩のグレネードランチャーも駄目になっちまった。 ああ,暇だ。そうだ,俺はなんて言われてんのかね。 ACネーム デスズブラザー レイヴンネーム デュライ 『ミッション成功率99%を誇るレイヴン。アリーナ参戦経験は無いがかなりの腕前を持っている事がわかる。機体を漆 黒に染め上げ,火星でもその戦闘が確認されている。しかし,その知名度は低く,特に民衆の間では全く無いと言って いい。かなり前からレイヴン活動を行っているらしい』 ……当てにならねぇみたいだな,このサイトは。 しかし,俺は99%で,あちらは100%かよ。……ナイツか。 ……回収班はまだか。もうすぐお日様がてっぺんに昇っちまうぞ。 地平線の向こうから雲が流れている。壮大な光景だ……が見飽きてきた……。 AC デスズブラザー RAVEN デュライ
開けた戦場での対多数戦を想定し、重量二脚型よりも機動力の高い重量逆関節型に換装された構成。積載能力に 劣るためミサイルランチャーは外されたが、長期戦を見越してブレード出力が強化されている。 重装甲はそのままに、機動力が強化されたためその生存能力は大幅に強化されている。その反面火力は弱体化し ているが、これはアセンブルの制約上仕方の無い事であろう。 AC フエーリアエ RAVEN ロジャー・バート
ブレードへのエネルギーサプライズ能力を補うために腕部が変更されている。その他に大きな変更点は無いが、それ はロジャーがアセンブルというものを次第に理解してきた事を示している。 AC デスズブラザー RAVEN デュライ
洞窟での殲滅戦を想定し、重武装が施された構成。機動力は度外視し、閉鎖空間を圧倒的な火力と装甲で制圧する 事に特化している。 射撃戦での優位に立つためにFCSを中間距離射撃用に換装している。また、この構成ならばブレードではなくシール ドを装備するのが常だが、この構成では高出力ブレードのままとなっている。これにはあまり意味は無く、デュライの性 格を考えれば面倒だったからであろう事が予想される。 AC アルビノエンジェル RAVEN ナイツ
突如としてデスズブラザーに攻撃を仕掛けた中量二脚AC。構成からは重量二脚にも近い印象があるが、常にブース タースロットルが全開にされているのかその機動力は軽量二脚にも迫るものを見せる。もちろんこれは通常では考えら れない事である。 現在ACが使用するものとしては最大出力のプラズマキャノンを搭載する。通常これは無限車両以外のACが搭載す る事は無いほどにACのエネルギーを消費するが、この機体のパイロットはこれをACを移動させながら使用する。それ だけではなく、シールドを装備し、右手にもパルスレーザーガン、構成パーツも軽量化と共に装甲の耐久性を強化する ためにエネルギーを多量に使用するタイプとなっている。それに対してジェネレーターは耐久限界を重視した仕様となっ ているなど不可解な点が多い。まさに非常識なACである。 トゥレイヴンズストーリーTOPへ |