第九話 聞いた名前 キャリアーリグが地下都市と地下都市を繋ぐ通路を走っていた。ホバー推進で移動しているため大きさを感じさせな い軽快な動きで目的地へ向かっている。大きさで言えば中型程度だろうか。黒く塗装されているが通路内のオレンジ色 の電灯に照らされ,ワックスがオレンジ色の光りを反射していた。 「ミニッツスターの野郎はしばらく謹慎みてえだな」 その中でモヒカンの男がリグを運転している少年に不意に離しかけた。モヒカンの男はいかにもレイヴンといった風貌 をしており顔中につけられたピアスを揺らしながら笑っている。 「ツルギはお咎め無しだってな。まったく、結構上も甘いなあ?」 それに対してリグを運転している少年はその男とはまったく逆にレイヴンとは思えない容姿だ。白い髪を前髪で目が 隠れるほどに伸ばし,見た目にはその歳は13,4といったところだろうか。しかしその表情の宿らない顔は一片の幼さ も感じさせない。モヒカンの男の話を聞いている様子も無く、ただハンドルを操作している。瞳が金色に見えるのは地下 通路の明かりのせいだろうか。 「ナイツてめえ! 少しは何か言えよこら! 俺様がバカみてえじゃねえか、ああ?」 いつまでも黙りこくっている少年,ナイツに向かって明らかに不快感を抱きモヒカンの男,ユニオンジャックは怒鳴っ た。さらにナイツの座っているシートに何度を蹴りをいれ運転の妨害をする。さすがにそれが気になったのかナイツは 口を開いた。 「止めろ,運転に集中できない。話相手が欲しければ端末でチャットルームでも探せばいいだろう」 あくまで相手にはしていないような言い方でその目線は前を向いたままだった。そして当然その態度にユニオンジャッ クは気を悪くした。右腕を振り上げゴテゴテした指輪のついた右手を拳にしてそれをナイツの後頭部に殴りつける,が ナイツはそれをまるで後ろにも目がついているように首を少し曲げるだけでかわしてしまった。 「体を動かしたいのなら格納庫なり通路なりで走ればいい」 目線を前に向けたまま言う。 「ケッ。機械の詰まったガキが」 半分気味悪がるような様子でシートに蹴りをいれ運転室を後にした。後に残ったのはシートの内部の骨が軋む音、そ して通路の灯りに白い髪をオレンジ色にしている少年だけになった。 ジーノが16になって四日。ガレージ・バーメンタイドはいつもの様子に戻っていた。いつもの様に騒がしく作業が行わ れており,整備士同士が会話を交わしては笑う。その中には少し前このガレージを留守にしていたレイヴン,ロジャー の姿もあった。 まったく変わらない。張り付いた様に晴れきった笑顔を絶やさず,お人好しぶりを発揮していた。文句も言わずに食 事,整備にジーノの送り迎えをこなしていた。まったく変わらない、ように見える。しかし全員があることに気付いてい た。あれ以来ロジャーはACに乗っていないのだ。それに時折ボーっとしていることが多い。しかしあんなことがあった後 だ。誰一人としてそのことに触れようとはしなかった。ただジーノだけはどうしたのだと頻りに聞くのだがロジャーはただ 笑顔で「疲れが溜まってるのかな」と言うだけだった。 今日もロジャーは楽しそうに整備士達と喋っていた。時折眠そうに目をこすりながら荷物を運んではその度に会話が 始まる。特に強制的に調理補佐的役割を受け持ったベンとは本当に仲が良さそうだった。 「親方,俺、少し休んできていいですか?」 ロジャーは作業が一段落した所でバーメンタイドに自分は部屋に戻っていいかとバーメンタイドに聞いた。彼にはロジ ャーは確かに疲れているように見えた。それに今は特に急いでいるわけでも無かった。 「ああ,しっかり休めな」 だから許可した。それに今のロジャーの様子が気にならないと言えば嘘になる。もしかしてACに乗るのが怖くなった んじゃないか? まさかと思いながらもつい考えてしまうのだった。 「じゃ〜……、後お願いします」 そう言い残し自室への階段を上っていった。規則正しい金属音は少し静かになったガレージに残った。さらにそこに 電子音が響いた。メインガレージに備え付けられた電話だ。そこに一番近かったのは床に座りこんで休憩していたジー ノだった。しばらく無視していたが誰も出ようとしない。 「ちょっとぉ……」 このガレージに一番電話を掛けるは当然ACの依頼を依頼するレイヴンである。ジーノはレイヴンが嫌いである。しか し電話の近くで休んでいたのが運の尽きと言ったところか。諦めてそのうるさい電子音の発生源に手を伸ばした。 「ガレージ・バーメンタイドです」 少し不機嫌そうに受話器に話しかける。相手はどうせレイヴンだ。礼儀なんか必要無い。そう考えて。しかしどうやら 今回の相手は想像していた者とは全く違うようだった。 「オールド・アイザック複合地下中央病院の者ですが,そちらにロジャー・バートというレイヴンは行っていませんか? もしくはそういうレイヴンがどこにいるかだけで良いんですけど」 ロジャーは自室のドアを閉めた。ガチャンと金属音が狭い背屋に残る。そこは小さい窓から入ってくる太陽の明かり が光の線をつくっておりそこには埃が舞っているのが分かる。まるで海底の映像のように白いものが浮き上がったり落 ちていたりしていた。 ロジャーは灯りもつけずにベッドに腰を下ろした。ギシッと金属が軋む音。そしてロジャーは正に自分の体が軋むのを 感じた。ギリギリと体中を締め付けられるような痛みが感覚を支配し、薄暗い部屋にいくつもフラッシュのような光が見 える。痛覚が視覚となって現れているのだろうか。 体を起こしていることさえ苦痛で靴を履いたままベッドに横になる。深呼吸。肺の動きとともに背中に激痛が走る。そ れでも息をしないわけにもいかない。そのせいでロジャーはここ数日ろくに眠る事もできなかった。 病院? 一体何のことだろうか。 「ロジャーならいますけど……」 意味もわからずにとりあえずいることは伝えた。 「いますか! いや良かった〜、やっと見つかった」 ガレージを手当たり次第にあたったのだろうか。安心した様子で電話越しにも溜息を吐いているのが分かった。しか しジーノにはそんなことはどうでもよかった。 「で、ロジャーがどうかしました?」 ロジャーは仰向けのまま長袖のシャツをめくった。すると青いあざがまるで模様のようにいくつもできている腕が出てく る。一体どうしたらこんな所にまであざができるのだろう。抜け出した病院の医師の話によれば体中に一気に衝撃を受 けたらしい。ロジャーにはそのあたりの記憶がどうもないのだがその衝撃が体中の痛みの原因だろうか。 「じゃあ、ロジャー病院抜け出したんですか! ?」 「ええ。はっきり言って痛み止め無しで動ける体じゃないんですけど……。それにまさかあの怪我でたった一日で意識を 取り戻すとは思いもしませんでしたし」 「そんなに酷いんですか?」 心臓の音が聞こえる。そしてその心音に合わせて体中に痛みが走る。まるで頭痛のように。しかしこの痛みには慣れ てしまった。激しい痛みではない。しかし慢性の苦痛は確実に精神を蝕んでいる。目を閉じて睡眠をとろうとしても少し でも痛みが激しくなればその目は開かれてしまうのだ。 「全身打撲……ですね。今のところ」 「今のところって……」 「応急処置だけで精密検査はまだなんです。もし内科に何かあったら内出血も考えられます。だとしたら今では手がつ けられない状態かも知れません」 「なんでそんな……」 「さあ、何でも約束があるとかで……。思い当ることあります?」 眠気を感じる。体中の血の流れが止まるような不思議な感覚がロジャーを包んでいた。久しぶりに眠れそうだな。薄 れてきた痛みの中でロジャーはそう感じた。 とりあえずジーノの誕生会には出席できた。だからといってもう一度病院に戻る気はしなかった。誰かを心配させる、 それはロジャーにとって最も嫌いなことだった。彼は人の心の痛みを感じてしまう。それを自覚し始めたのはいつの頃 だったのだろうか。 きっとあの時だ。大切なあの人の笑顔を失ってしまったあの時から……。 誰も心配させたくない、みんなに幸せでいて欲しい、例えその結果俺がどうなっても。 ロジャーを突き動かすのはいつもこの思いだった。 ぴし。いきなり右胸に裂けるような激痛が走った。あまりの痛みに両手でその胸をかばうがそれと同時に体中に限界 がきた。体中が殴られた、そんな気がした。今まで忘れていた痛みまでも甦って体中を支配した。体を胎児の様に丸 め、ただ痛みに耐える。早く収まれ、早く収まれ、と。 コンコンっ 「ロジャー、いるでしょ?」 不意にノックとジーノの声が聞こえた。痛みを無視して体を起こす。その時ロジャーは初めて自分が泣いていたことに 気付いた。涙を袖で拭き声を出す。なるだけ普通に。 「いるよ」 よし、声は出る。 とりあえずそれくらいはできるのでロジャーは少し安心した。靴を履いたままの足をベッドから下ろしてドアに向かっ た。歩く度に両腿に痛みが走るがそれも無視する。 ガチャ、と鍵の掛かっていないドアを開ける。そこから入る光りは少し眩しい。ただ、その光を遮っているものがある。 ジーノだ。 「ん? どしたの」 少し心配そうにしているのがすぐに分かった。最近こんな顔ばっかだな。ロジャーこそ心配になってしまう。 「どしたのじゃなくて。病院行くよ、病院」 早速本題に入る。ジーノにはロジャーが怪我を隠している事が分かっていた。だからいちいち説明など意味が無いこ とは分かっていた。 「病院? いいけど……ジーノちゃん、どこか悪いの?」 病院という言葉にロジャーは少し不安を感じたがそれでもとぼけてみせた。それにもしジーノが病院に行くのならそれ を連れて行くのはロジャーになるだろう。 「あたしじゃないわよ、あんたが行くの。あんた怪我してるんでしょ、病院から電話かかって来たんだから。病院抜け出し たって」 しかしどうやら知っているようだった。 「ええっと……、ほら、もう治っちゃったしさ。俺的にはぜんっぜんオッケーなんだけど」 少し言葉足らずに言い訳を言い、両手をヒラヒラさせた。まだ右胸の辺りがキリキリと痛むが少しは気が紛れている のか楽にはなっていた。 「ね?」 「ね、じゃなくて……」 言って良いのか分からなかった。言ってしまうと何か変わってしまうような、そんな気がしたからだ。 「じゃあなんでいつもみたいに笑ってないの?」 しかし口に出してしまった言葉は戻らない。最初から何か違っているような気がした。そして少し、本当に少しの違い だが、ジーノはすぐに気付いた。何故なら笑っていないだけでロジャーがロジャーでないような気さえしてしまうのだ。 そしてその言葉に驚いたのはロジャー自身だった。最初はその言葉の意味がわからずに考えていたが、自分でも顔 に力が入っていないのを感じた。先程までの痛みを和らげるために無意識に体中から力を抜いていたのだろうか。ロ ジャーは笑顔をつくろうとするがその方法を忘れてしまった様に顔が動かない。 「あたしのせい?」 戸惑っているロジャーはジーノのその言葉に更に驚く。 「あたしの誕生日だったらから無理して……」 「違うよ」 全て言われてしまう前にその言葉を遮った。ロジャーにとってその言葉の続きは心苦しいものだと分かっているから。 「ただ俺が勝手でしたことだからさ。だから全然ジーノちゃんのせいなんかじゃないんだよ。それにさ……」 まだ納得していないジーノに更に言葉を繋げた。 「せっかくの誕生日じゃない。ね?」 そしてやっとのことで思い出した笑顔を見せる。曇り空に日が差した、そんな笑顔だった。ジーノもまだ納得はしてい ないがその笑顔を見せられるとそれ以上は言えなかった。 「いいけど……、病院は行ったほうがいいよ」 代わりにそうとだけ言う。 「そだね。でも俺この辺りの病院わからないから案内して欲しいんだけど。アイスおごっちゃうからさ、お願い」 ロジャーはのその言葉はロジャーにとって意外なものだった。ロジャーにとってはこれ以上ジーノを心配させたくない からの言葉だ。しかしジーノにしてみればそれは考えれば考えるほどおかしな言葉だ。あれほど行くのを拒んでいた病 院の行き先を聞いているのだからまるで気の変わった小さい子供のようだった。 「いいよ。でもアイスはダブルだからね」 そう言ってジーノも笑った。それはロジャーが望んでいた笑顔だった。 無限に広がる大宇宙。人類はその生存圏を金星にまで広げ、繁栄の極みを迎えていた。しかし人類は存亡の危機に 瀕していた。木星の衛星エウロパを本拠地とする木星人が地球の資源を狙い侵略を開始したのである。MTやACなど 彼らの謎のロボットの前には無力だった。しかし、ある科学者の手によってその謎のロボットに匹敵しうる性能を持つ新 型のAC、スペース・アーマード・コアが開発されたのだ。しかしスペース・アーマード・コア、SACは全てのパイロットが乗 れるわけではなく乗り手をえら……ピューガガー……の交通状況で……ピーガー……ティでの連続殺人の容疑者が使 命手配されました。懸賞金付きでの使命手配はこの場合には……キュー、カチッ。 その音と供にラジオは切れた。ラジオっていうのはろくなのがやっていない。結局俺はいつものようにリグのホバー音 をBGMに通路を走らせていた。 地下の通路は大型のリグでも通れるくらい極端なまでに広い。ACの出入りも簡単で、レイヴンはミッションの移動に この通路をよく使う。俺はその通路を自前のリグで移動している。 リグの運転は簡単だ。ACと同じで半分は自動で動いてくれる。運転手の仕事は命令をするだけだ。それと同時にリ グの運転に免許は必要無い。元々兵器だからという事もあるのだろうが、用は運転できるのなら運転しても良いという ことなのだろう。俺のようなレイヴンにとっては嬉しい限りだ。 ナーヴスコンコードでの仕事依頼の対応も今までと変わらない。ただ一度に送られてくる依頼の量が極端に多くなって 選ぶのは一苦労だがな。その中で選んだ今回の依頼はまたインディーズ絡みだそうだ。 『監督局からの依頼だ。オールド・ザム東87番地廃棄地下都市に不法武装集団インディーズと思われる勢力が駐屯し ている。今まで表立った動きが無いため放置していたが遂に動きがあった。そこに向かい所属不明のAC輸送用キャリ アーリグが走行しているのが確認された。AC三機ほどの輸送を可能とする規模のリグだがその後部には輸送コンテ ナが繋がれている。おそらくは戦闘兵器だ。それも地下の長距離移動を可能とするMTに違いない。今回の依頼はそ れらMTを含めた戦力の殲滅だ。具体的な戦力は不明だが大部隊が予想される。油断はしないでくれ。以上』 報酬は100000。妥当なところだ。特に輸送にキャリアーリグを使う辺りはどう考えてもレイヴンが絡んでいる。レイ ヴンって事はACも出てくるだろう。 何故かはわからないがACはレイヴン以外の人物による使用を完全に禁止されている。企業の人間、ガードも例外で はない。つまり彼らが通常所有する戦力は戦闘メカ、MTというわけだ。どういうわけかあの頭の硬い企業さえこの誰が 決めたかわからない決まりを破ろうとはしない。当然破る者もいないわけではないがそいつは無事でいる事は無い。誰 に狙われるかはまちまちだが確実に潰しに掛かられ、消される。例外は無い。 まあ、そういうわけでACイコールレイヴンの数式が成り立つわけだ。予想戦力はAC1〜3機とMT複数。MTはパイ ロットが乗る前に叩けばいいが、ACはレイヴンの腕による。 ……目的地までまだ距離があるな。俺はリグを自動運転に切り替え狭い運転室を後にした。マシンガンのマガジンを 差し替えたほうが良さそうだからな。 老人はそのバーではいつも決まった席に座っている。それは彼の立場の特殊性を辺りに示していた。 常連客の殆どは彼をいわゆる情報屋だという事を知っている。しかしそれだけだ。バーのマスターにしてみれば安定 した収入源であり、常連客にしてみれば金次第で興味深い話を聞かせてくれる物知りに過ぎない。そして彼の情報収 集能力を真に頼る者にしてみればいつも同じ場所にいるのは助かる事だった。 その隣に一人の男が座った。消毒液臭い白衣をまとい、昼でも薄暗いバーでは目立つ服装だをしていた。 「コーラをくれ」 白衣の男はカウンターでグラスを拭いているマスターにそうとだけ言うと目線を老人に移した。その先では変わらない 様子の老人が新聞を読んでいる。 「ひさしぶりだな。仕事か?」 ここ数日姿を見なかった事をそれと無く老人に伝える。その言葉に初めて老人は広げていた新聞を畳み、口を開い た。目線は新聞の後ろに隠れていたグラスに移ったまま動かない。 「ああ、話を売るだけが仕事じゃないんでね。で、今度はなんだレイニー」 あまり乗り気ではない様子で老人はグラスの中で溶けて水になった氷をあおった。 「そうだな……。強化人間の目が金色でない事はあり得ることなのか? ただし、ただのドープ強化でない場合を除い てだ」 レイニーはマスターが置いたコーラを手前に引き寄せながら言った。しかしそのグラスに入っている氷の量が妙に多 い事に気付き幾分か顔をしかめた。老人はその事を気にする様子も無く、カウンターを二本指で一回叩いた。そしてレ イニーはいつものように100ドル札を老人の畳んだ新聞の上に乗せた。 「無いことも無い」 老人はそれを上着のポケットに突っ込んだ後口を開いた。 「金色の目は単純に信号伝達の効率を考えての事だ。効率を考えなければ金色じゃなくていい。むしろ自分の好みに 色を選ぶほうがレイヴンらしいだろうな」 「レイヴンとは限らない」 レイニーは老人の言葉に素早く訂正を求めた。しかし老人はその言葉を無視した。 「ただ、その金色の目の製造元は分かっていない。一説には個人での製造が行われてるとも 言われているが真相は まあ、霞の如くだ。俺も調べるつもりは無い。考えてみろ。そんなどこで造られているかもわからない物を疑問も持たず に手に入れる愚かしい人種をなんて言う?」 まるでその言葉が来るのを予想していたかのような言葉だった。レイニーは反論もできずに口の中でその問いに答え た。 レイヴン 「それと……これは未確認だが、フライトナーズのレオス・クライン。こいつの目は赤かったって話だ。あまり信用できる 話じゃないがね」 そこまで言うと老人は畳んでいた新聞を広げた。話は終わった、という事だ。レイニーはその事をよく知っていた。10 0ドル分の情報とも言えないが情報屋とそれを受ける者とではあくまで情報屋のほうが有利だ。文句を言えば次の依頼 に支障がでる。コーラの炭酸に舌を痺れさせながら飲んでいるとレイニーはこちらを見ている目線に気がついた。 「あなた、ここの情報屋?」 そこには女性が立っていた。緑色のメッシュがはいった黒髪をポニーテールにしており、少しつり上がった目が印象 的だ。半袖のTシャツから覗く腕は細いが筋肉質に思える。どうやら老人に話がある様でレイニーとの会話が収まった ところを見計らってこちらに話し掛けて来たのだろう。しかし老人よりも先にレイニーが口を開いた。 「どうです? なんなら私が話になりましょうか? 私ならお金は取りませんし、それなりの事なら詳しいつもりです。美人 に限りますがあなたなら大歓迎ですよ」 簡単に言うとレイニーの好みだった。できる限り紳士的な態度をとって注意を自分に向けようとするが 「悪いけど私の話相手も美男に限るの」 彼女は取り合わなかった。それでも笑っているように見えたのでレイニーは微笑み返し1ドル札をカウンターに置いて バーを出た。人の少ない昼間のバーには天然木材のドアが軋む音がよく響いた。 「俺に話か? 情報が欲しいのか?」 老人は初めて見る女性にもいつもの様に対応した。初めて見ると言っても新聞紙から少し視線をずらした程度で注意 深くは見ていないのだが。その対応に老人が情報屋だと確信した女性は今までレイニーが座っていた席に座り口を開 いた。 「仇を討ちたい。相手はレイヴン。あなたの知恵を貸して欲しい」 冗談とは思えない女性のその言葉に老人は顔をしかめ新聞紙を畳んだ。そして初めてしっかりとその顔を見た。老人 にはその顔はどこか痛々しく悲しげに見えた。 「話が込み入りそうだな。お嬢さん、名前は?」 その問いに女性は少し考えてから答えた。 「シークネイル」 老人には彼女がレイヴンだと分かった。 医師はレントゲン写真を蛍光板に張りつけていた。医師らしく白衣をはおり、そのネームプレートにはビリー・デリース と書かれている。 ビリーはそのレントゲンを見比べてどうも信じられないといった顔をした。右にあるのが1週間前セントラル・オールド・ アイザックで撮られたもの。左にあるのがつい先程撮られたものである。 ほんとかよ……。 ビリーはあごに短く生え揃った髭をさすりながら今だ信じられない様子で後ろを振りかえった。そこでは青年と少女が 何やら言い争っていた。というよりもビリーには少女が青年に対してどなりつけている様に見えた。それに対して青年は 必死になだめている。 ロジャー・バートとはこの青年の事だろうか。ビリーはレイヴンと聞いていたがそこにいるのは彼の持っているレイヴン のイメージとはかけ離れた人の良さそうな若い男だ。 大深度戦争以前、レイヴンは市民権を持つことが出来なかった。その理由は当時レイヴンという存在があまりにも増 えすぎた事にあった。ACという彼ら以外が持つ事を禁じられた圧倒的戦闘能力を持つ兵器を持つレイヴンはそれ自体 が一般市民にとって脅威であり、レイヴン自身もそれを傘に横暴を極めた。その自体をさすがに重く見たレイヴンズネ ストが彼らの市民権を取り上げる事を企業、ガード、更にはACに乗る事の無い傭兵たちに宣言したのだ。レイヴン達 に代わりに与えられたのは準市民権。うたがわしきを罰することが許され、当然一般病院への通院すら許されなかった 彼らはその行動規模が縮小し、更にレイヴンズネストの崩壊と大深度戦争を機会にその存在は著しく縮小していった。 その後レイヴンという存在はコンコード社の運営するアリーナで戦う闘士の事を指すようになった。彼らはレイヴンズ ネストを失い、戦場を失ったのだ。更に戦いを求める人類のフラストレーションを解消する役割を果たし、賭博要素をも 持つアリーナは大盛況となった。しかしそれとは裏腹にレイヴンという存在は年を重ねる毎に減っていった。 しかし、火星テラフォーミングの発見と同時期、コンコード社はナーヴスコンコードを設立した。さらにこのナーヴスコ ンコードはレイヴン達の市民権を約束した。これにより再びレイヴンという存在はアリーナの闘士から火星という新しい 戦場の死神へとなった。その数は再び爆発した様に増えることになった。 しかしレオス・クラインの起こしたクーデターを機会に火星という戦場を失い地球へ戻る事を余儀なくされたレイヴン 達は再びその数を減らす事になる。それには地球には今だレイヴンを準市民扱いする者が多い事にあり、コンコード 社の働きかけとは裏腹にその数は需要を満たすことは無く1000人に満たない程になった。それと同時に地球市民か らもレイヴンに対する偏見が少しは薄らいだと言っても良いだろう。正しくは認知されることが少なくなっただけなのだ が。 とはいえレイヴンが病院を出入りする事は少ない。慣れないながらもとりあえずこの言い争いを止めて話を始めなけ れば、ビリーはレイヴンの名を言ってみる事にした。 「バートさん」 その言葉に二人は振りかえった。そして今までの言い争いが嘘のように黙っている。 「あ、はい」 代わりにロジャーは小さく手を上げて返事をした。思ったよりも簡単におさまったのでビリーはレントゲンの貼られてい る蛍光板に目線を移し説明を始める事にした。といっても彼自身この結果を信じきる事は出来ていないのだが。 「驚異的……というより奇跡的な回復力です。これは右大腿部ですが内出血を起こして、ほら、この白くなってる部分で す。この部分がもう殆ど治っています」 ビリーは右のレントゲン、左のレントゲンと指を指して説明した。その言葉通り右の白が目立つものに比べ左のレント ゲンは明らかな異常は見受けられない。それを見たロジャーはほら言ったじゃない、とでも言いたげにジーノに向けて 微笑んだ。 「この右肋骨のひびも気になるほどでもなくなっています。MRIでもこの結果は同じでした。はっきり言って信じられない んですけどね……」 それだけじゃない。なぜかビリーにはこれに似たようなものを見たことがあるように感じたのだ。しかしロジャーはこれ を聞いて今度こそ声を出してジーノに言った。 「ね。もうだいじょぶでしょ?」 「本当に大丈夫ですか?」 しかしビリーがその言葉に対して疑問を口にした。 「怪我が治っているというのは別としても、こんなのほったらかしにしたら痛くて眠れなかったんじゃないですか?」 ズバリ言い当てられロジャーは反論出来なかった。というのも現在でも痛みはひいておらず、むしろ無理してバイクに 乗っていたためハンドルを支えていた両腕の痛みは酷くなっていたのだ。ただ、それも慣れてしまったものだが。 「まあ怪我は治りかけてるんで改めて入院する必要も無いでしょう。一応痛み止めは出しますから受付で受け取ってく ださい」 そういうとビリーは二人に背を向けデスクに置いてある書類になにやら書き始めた。ペンの走る音が静かな部屋によ く響く。 「じゃあ、もう行っていいですか?」 話が終わったようなのでロジャーはまだ背を向けているビリーに帰っていいかどうかを尋ねた。 「バートさんは薬が出るのを待っていた方が良いですね。ただ、妹さんにも詳しく説明しておきたいのでここに残ってもら えますか?」 相変わらず書類に何かを書き込みながら答える。 「兄弟じゃないですよ。ジーノちゃん、俺、薬もらったら戻ってくるからそれまで待っててね」 何かを言いかけているジーノより先にロジャーが訂正を入れた。そしてそれを言い終わったら手を上げて部屋を出て いった。 「(あたしの意思も尊重しなさいよまったく……)」 ペンの走る音だけが聞こえる部屋でジーノは声には出さず愚痴った。それにあの男の妹だと思われた事も冗談では なかった。 「で、ですけどね」 ペンを止めてビリーがもう一度振りかえり、ジーノに向けて口を開いた。 「どうなんですか、彼は」 既にジーノが何者であるかには関心が無くなっていたビリーはすぐに本題に移した。しかしジーノはその質問の意味 が分からずに首を傾げた。それを察してビリーはすぐに説明を始めた。元々そのためにジーノを残したのだ。 「あなたぐらいの歳なら分かると思うんですが、背が伸びるっていうのは膝とか背中とかが痛くなりますよね」 「はあ」 身に覚えが無いわけではないが一体それがどうしたのだろうかとジーノは曖昧な返事をした。 「怪我が治るのも同じなんですよ。体に変化が起きるという事は苦痛を伴なうもんなんです。普通痛みを感じるほどの 治癒が行われる場合入院して痛み止めも使われるから気付く事は少ないんですけどね。筋肉痛なんて良い例でしょう。 でも……このバートさんの回復力は異常って言ってもいいくらい激しいものなんです」 ジーノにはビリーの言いたいことが分かった。そしてその内容はすっかり大丈夫だと自分でも思っていた彼女を再び 不安にさせるに十分だった。 「でも痛みに鈍感だとかじゃないですか? あいつそういうとこありますよ」 それでもそう考えればいくらか納得がいく。元々ジーノにはロジャー対してそういうイメージがある。でなければあそこ までお人好しではいられないとも思う。 しかしビリーはまるでその言葉を待っていたかのようにデスクの引き出しに手を掛ける。そしてその中から薄黄色い 書類入れの更にその中から黒いフィルムのようなものを取り出した。それはジーノの思っていた異常にペラペラと薄 い。 「これが一般……つーか昨日ここで診た骨折した患者のMRI写真です。白い線が神経なんですが……あ、右太腿で す」 説明を加えながらそれをジーノに渡した。といってもジーノにはその写真をどう見れば良いのかわからない。辛うじて ビリーの言った白い線が神経だと認識できたくらいだ。 「そしてこれがさっきのバートさんの右大腿です。わかります?」 次に今まで蛍光板に貼られていたもう一枚のMRI写真を渡した。そしてジーノはすぐにその違いに気付いた。いや、 違いなどというものではない。別物と言ってもいいようなほど明らかに太く、いくつにも分岐している。 「これがロジャーの?」 しかしこんなものを見せられても彼女にはどちらが異常なのか判断しかねた。 「彼はどういうわけか常人に比べて明らかに感覚神経が発達しています。それほどではありませんが運動神経、反射 神経、どれも僕が見たことが無い程です。鈍感とは程遠いでしょうね。それなのにああやって笑ってられるなんて僕に は信じられないですよ」 ジーノは二つの黒が目立つ写真を何度も見比べながら考えていた。思い当たる事はいくつもあったのだ。レイヴンと なって一月ほどで叔父の惚れこんだメイテンヘイデンを負かせた事が真っ先に思いつく。 それにすで記憶の片隅あったあの事も。 「あんまり信じてはいないんですけどもしかして」 それを言い終わる前にロジャーが部屋に戻ってきた。右手に少し膨らんだ白い袋を持っている。 「終わりました?」 ジーノが何かを言いかけていた事を気にしているのかビリーの言っていた「説明」が終わったかどうかを尋ねた。それ を察したジーノは両手を振ってごまかした。元々自分でも信じていなかった事だ。改めて言う気にもなれなかった。 「ううん、もう終わったよ」 そう言って席を立ち、ビリーに挨拶をして部屋を出ていった。一人残されたビリーは改めてそれらを見比べた。 発達した神経はともかくこれに似たものを見た事がある。この内科系を中心にした急激な治癒。どこで見たものかを 知るためにビリーはファイルを漁る事にした。 二人は病院の騒がしい通路を歩いていた。特に理由があるわけではないがなんとなく二人とも黙っている。時折病室 からは笑い声が聞こえ、場は和んでいた。 ジーノはまだ考えていた。感覚神経が異常に発達したロジャーとはいえそれは無いだろうと。しかしいざそれを確かめ ようとすると口が言う事を聞かなかった。そんな挙動不信なジーノをどうしたのかとロジャーは背中を曲げ、顔を覗きこ むようにして話掛けた。 「どうかした?」 心配している様には見えないぐらいに笑顔だった。 「ううん、どうもしないよ」 そんないつもと変わらない笑顔を見ていると自分が考えている事などばかばかしく思えてきた。だからジーノはそれと なく聞いてみた。 「ねえ、ロジャー、天気どうかなぁ」 向かいの窓から見える景色は夏らしく眩しいものだった。緑色の葉が風に揺れてその下にできた影も一緒に揺れて いた。 考えてみればそんなはずが無い。どんなに神経を尖らせたって天気の変化まで感じることが出来るはずが無いの だ。ジーノはますます自分がばかばかしくなって笑いを漏らした。 「ん〜」 ロジャーはそんな様子のジーノを知ってか知らずか白い天井を見ながら口を開いた。 「なんか雨降りそ。ちょっと急ごうよ」 ジーノの足が止まった。どういう事かは分かっていたがやはり分からなかった。ロジャーは歩きながらズボンのポケッ トの中からバイクの鍵を探していた。 廃棄された地下都市。しかしそこは薄暗い事はなくまだ時間相応の明るさを保っていた。時刻明暗調節機能がまだ 生きているか、回復している証拠だ。その下で数人の男が話をしていた。一人はモヒカンを逆立てピアスが派手に光る 男。それに対する男は背が低いがまるで筋肉の固まりの様に引き締まった体を軍服で纏い鼻の下に髭を蓄えていた。 その後ろには同じ軍服を着ている男が三人ついていた。 「モノは?」 軍服の男がモヒカンの男、ユニオンジャックにその事を聞いた。今日は約束の日。そして今は約束の時間だ。それが 分かっていたモヒカンの男は自分の後ろで待機しているキャリアーリグとその後ろで繋がれているコンテナを親指で指 した。 「ナイツ! 見せてやれ!」 大声。しかし軍服の男にはその大声は誰に対してのものだか分からなかった。もしリグに対してだとしてもその中の 乗組員に聞こえるはずはない。しかしその声が聞こえていたかの様にガゴンと大きな音。それと共にコンテナが開き、 中で紫色のゴリラのようなMT、リーンエイプがまるで人形の様に並んでいた。 「で、そっちのモノはどーよ。っと、その前にあっちこっちで俺を狙ってるバカを下がらせろや」 それを確認してユニオンジャックはこちらに対する支払いと前々から気になっていた事を言った。彼にはビルの窓で 光を反射させている存在に気がついていたのだ。おそらくはこちらが事を起こした場合にでも備えているのだろうが、も しACとの戦闘になった場合は全く役にはたたないだろう。 それが分かっていた軍服の男は舌打ちの後アタッシュケースに入っていたカードをユニオンジャックに渡した。そして その後大きく手を挙げ、下げた。するとあちこちからカチャカチャと銃を下げ、安全装置をつける音が聞こえた。 「まいど。ちゃんとインディーズマークつけてあるゼェ? 後は好きにやってくれよ」 あちらこちらで銃を下げる音が聞こえる中、悠々とユニオンジャックはそのカードをズボンに突っ込みリグに向かって 歩き出した。しかしそれよりも先にリグのAC格納庫が開き、中から純白のACが姿を現した。 「アルビノエンジェル出してどーするつもりだぁ? お、何か来たかおい」 ユニオンジャックはそれに対して驚く事も無くアルビノエンジェルと言ったACに向かって声を掛けた。軍服の男たちが 動揺する中、アルビノエンジェルは外部音声でユニオンジャックに返事をした。 『なにかが近づいている。リグ……キャリアーリグだ。レイヴンが来たようだな』 それは子供の声だった。スピーカー越しにもそれが分かる程に。 「ハッ! 便利だねぇ、プラスってのはよぉ」 ユニオンジャックはアルビノエンジェルのパイロットに皮肉ともそうでないとも言えないような事を言った後、リグに向か って走り出した。後に残された軍服の男達は慌てて建物の地下に向かっていった。 しばらくの沈黙の後AC格納庫からもう一機のACが姿を現した。それは重装甲で膨れ上がった上半身をしており、そ れとは不釣り合いなほど細い逆関節脚部を備えていた。装甲は青の強いトリコロールに色塗られ、純白のアルビノエン ジェルとは対称的に派手だ。 「ACは後どんくらいで来るよ?」 今度は回線を通してユニオンジャックはナイツにそれを聞いた。いくらナイツがプラスとして聴覚が強化されていると 言ってもACによって外部から完全に遮断されては音は伝わらない。 「……北側ゲートのすぐ向こうだ。……重い。重量ACだな」 しばらくの沈黙の後返事、それも信じられないくらい詳しい内容で返って来た。それにユニオンジャックは半ば呆れた ように眉を上げた。ヘルメットでも自慢のモヒカンが潰れてしまっているが、それも戦闘を目前として高ぶる戦闘意欲の 前に掻き消えていた。 重い音と機械音が混ざった大きな音が廃棄されたはずの地下都市に響いた。二重になっているゲートが左右、そして 上下に開く。そしてその先には小さな明り灯らないほど暗い地下通路でその闇に負けないほどの黒をその身に纏ったA Cが立っていた。その目だけは赤く、暗闇の中で唯一の赤だった。 『ACを確認。ACの詳細確認。機体名デスズブラザー。アリーナ登録無し。武装予想不可能』 やや荒削りなコンピューターボイスがその漆黒のACの名を告げた。それはユニオンジャックの耳に心地良く、そして 意外で、彼の求めていたものだった。 「デスズブラザーァァァアァアァァアアァァ? ! ってのはナイツとやりあったやつじゃねえかよ! 確かデュライだった よなぁああぁああ! おもしれえじゃねか! 手ぇ出すんじゃねえぞナイツよぉ! あの野郎を俺がやりゃあ俺の方が上 なんだゼェ? !」 狂気を感じさせる程に興奮した声を隠そうともせずに重量コアに備え付けられたスーパーチャージャーを展開させ 「俺と俺の<ジャグ>に勝てるやつなんていねえェええぇぇえんだよ!」 スーパーチャージャーが咆哮し、オーバードブーストによる急加速が始まった。 目の前のゲートが重い音と共に開く。そこから明るい地下都市の光が射し、デスズブラザーの漆黒の装甲が本当に 漆黒である事を知らせていた。次第に明るくなる視界にあわせ、デュライは光学カメラの感度を下げる。それにあわせ てやや緑の入った画像が暗くなったり明るくなったりした。 「随分と静かだな。MTはまだ動いてないのか」 デュライは開くゲートを眺めながらそれを確認した。 MTはACに比べて機構が単純であり、その分パーツひとつひとつが大型化する傾向にある。するとそれだけその機 動音はうるさくなるのである。デュライはそれをよく知っていたのだ。 ゲートが完全に開きそこからまだ昼の明るさを保った地下都市が姿を現した。まだ植えられた植物が育っている事から エアクリーナーも正常に作動しているのだろう。廃棄されたものにしてはその機能はあまり失われていない事にデュライ は少なからず感心した。しかしその先には建物ではないものが二つ、大きな影を作り直立していた。 『ACを確認しました。ACを確認しました』 デスズブラザーに装備されているコンピューターがそれをACである事を知らせた。 「二機確認したってまとめて言えねーのか」 大体予想はついていたデュライにとって二回繰り返されたその言葉はややうるさかった。デュライはまだ遠目で二本 の線にしか見えないACに対して、既に戦闘モードが機動しているデスズブラザーのマシンガンを向けた。まだロックは しない。 よく見ればその更に後ろではキャリーリグとそれに繋がれたコンテナが開いたまま停止していた。その開かれたコン テナの中には紫色のMTが並んでいる。あれがとりあえずのターゲットであることを確認する。 デュライが観察していると二本の線のひとつが大きくなってきた。大きな噴射音とともにそれは次第に姿をはっきりと したものにしている。デスズブラザーのコックピットにロックオンされた事を知らせるアラームが鳴り響き、それからあま り時間を置かずに接近してきた線は右手からバズーカ弾を放った。しかしデュライにはその一連の動作が手にとる様 にわかった。デスズブラザーのバックブースターを横に作動させ余裕を持ってそれを回避した。そして一気に射程距離 内に入った敵ACに対してマシンガンで反撃する。しかしそれはFCSの予想より速く移動しており、デスズブラザーの横 を通りすぎていった。 『敵ACの詳細を確認しました。ジャグです。アヴァロンアリーナ12位、オールドガルアリーナ53位。標準武装は標準型 バズーカ砲、大型ミサイルランチャー、三連ロケットランチャー、照射型レーザーブレード。基準違反重量逆関節機体で す』 「基準違反か……。バズーカ持ちにしては速いわけだ」 デュライはコンピューターに知らされた情報から、おそらく相手の方が旋廻性能が高いと知り、今だ背後にいるジャグ に対して振りかえる前に距離を離す事にした。それに今だ詳細のわからないもう一体の援護も気になる。 脚部にはそれぞれ『積載量』というものがあらかじめ設定されている。これは脚部には元々移動の他に上半身を支え ると言う重要な役割を持っているためである。基本的には軽量型のように機動力を重視したタイプは、その分フレーム も軽量化されると同時にその分その耐久力も落ちる。すると当然その分重量を支える力も落ちるのだ。それを具体的 な数字にして表した ものが積載量である。 とは言っても当然その積載量はかなりの余裕を持って設定されている。と言うのも元々戦闘兵器であるACに実際の 積載量ギリギリまで武装を積まれては被弾や着地による衝撃ですぐさまフレームの耐久力が限界に達してしまい、破 損してしまうのだ。そうなってしまわないための余裕を無視して限界まで重武装を施すのが基準違反と言われるもので あり、そのようにアセンブルされた機体を基準違反機体と言うのである。 この基準違反機体は重武装、重装甲、高機動を実現する事が可能で、一見ACとしては理想的である。しかしその反 面脚部は自重によって信じられないほどに耐久力が落ちており、その脚部が地面と接触している状態で脚部以外が攻 撃を受けた場合もすぐさま脚部から崩れ去ってしまうのだ。しかし腕があるレイヴンがこの基準違反を選ぶ事も少なく は無く、特にアリーナでは多く見受けられる。 距離をとって振りかえると既にこちらに接近しているジャグがバズーカ弾を連射していた。しかしデュライはいくら重装 甲とはいえ弾速の遅いバズーカ弾に当る気は無かった。一発一発をブーストの急加速で回避しながらマシンガンで反 撃する。とはいえ回避に集中していた事もあり、それは回避されている。 『ハァッッハァアアーーー! さすがじゃねぇかデュライよぉおお! 』 ユニオンジャックは外部音声を使って隠すことなく自分の言葉を放った。その声は狂気混じりのものに聞こえる。しか しデュライが驚愕した事は自分の名前が知られている事だった。 『ナイツのガキがよぉおお、やられたのも頷けるゼェ! ハッハァアーーーー! 』 なおも不快感を感じるその言葉にデュライは再び驚愕した。 「ナイツ……。あのプラスか」 デュライは迫るバズーカ弾の連射を特に苦労する事も無く回避しながら大体の事を把握した。このジャグのパイロット はナイツと繋がりを持っており、それで自分の名を知ったのだろうと。しかしそれを知ってしまえば後は興味が無かっ た。 バズーカ弾が後少しのところでデスズブラザーをかすめ、道路に着弾した。これで15発目。いくら弾速の遅いバズー カ弾とは言え重量ACにことごとくそれをかわされているのことにユニオンジャックはさすがに苛立ちを感じた。さらにか わしているつもりのマシンガンも確実に数発が命中しており、基準違反ACに乗っている彼にとってそれはとてつもない 屈辱だった。 『クソォッタレがぁあ! こいつを食らえやぁあ! 』 管理火器を大型ミサイルランチャーに代えデスズブラザーをロック、そしてそれが終了する。ユニオンジャックがトリガ ーを引くと同時に右肩に取り付けられた大型ミサイルポットが開き、そこからACの腕ほどもあるミサイルが飛び出し た。それはゆっくりとジャグとデスズブラザーの最短距離を選びながら飛行している。 「FIN/BOO? ややこしいもん出しやがって」 しかしデュライはその言葉とは裏腹に信じられないほど冷静にデコイをひとつだけ撒いてバックブースターで距離をと った。大型ミサイルはそれに吸い込まれて激突する。 辺りは一瞬音を失い、闇を失った。白一色となり全てがそれに飲まれた。それはとてつもない爆発。道路を挟む二つの ビルがそれだけでまるで積み木の様に吹き飛んだ。コンクリート、ガラス、そして人だったような物がその爆発で撒き散 らされ、次には空間がその爆発で失われた空気を補おうと凄まじい勢いで辺りの物を吸いこみ始めた。そしてそれは 一瞬で行われ一瞬で終わった。 『ハッハァアァーーーー! どぉよ? クールだろぉ! ? 』 ユニオンジャックは今だに崩壊の音が響く中、僅かに残光の残るメインモニタを睨みながら外部音声で声を張り上げ る。顎が外れるほどに口を開けそこからは呆れるほどに狂気が噴出していた。 『あぁ? 』 黒煙の中から白煙をなびかせながらミサイルが飛び出して来た。意表でも突いたつもりだろうか。しかしユニオンジャ ックにはそれくらい予想がついていた。彼はジャグにジャンプをさせ、そのミサイルをかわす。 『なんだぁそりゃあよぉおお』 あまりにもつまらない攻撃に落胆の表情を見せる。しかし、それもすぐに消えた。気付いたのだ。自分の後ろにあるも のに。 六基のミサイルはジャグを追尾しようとはせずに真っ直ぐ目標に向かっていた。その目標はコンテナの中のMT。着 弾と同時にMTは炎に包まれ、爆発する。紫色の装甲を撒き散らしそれが隣のMTに叩きつけられた。 『チック……! おいこらぁあナイツ! 何してやがる! 』 ユニオンジャックはその失態を認めようとはせず、回線を通し既にどこにいるのかわからないナイツに責任を押し付 けようとする。 『……手を出すなと言ったのはお前だ』 その言葉は彼にはこう聞こえた。お前のせいだ、と。 『アフターケアは別だクソッタレェ! 早くどうにかしろ! 』 『もう遅い』 その言葉と同時に黒煙から赤い火球が今だ空中にいるジャグのすぐ下を通り過ぎ真っ直ぐコンテナに向かって行っ た。辺りを照らしながらコンテナに吸い込まれる。そして爆発はコンテナの半分を飲みこみ、全てのMTは吹き飛ばされ 人形の様に転がっていった。 『チックショオ! 』 収まり切っていない黒煙に向かってバズーカを連射弾する。FCSは黒煙に隠れるデスズブラザーをロックしてはいる が、あまりに酷い黒煙のためそのロックサイトは明らかにぶれており、正確なものではない。しかし興奮し切っているユ ニオンジャックはそれに気付く事も無く連射を続けていた。黒煙の中でさらに爆発が起こる。しかしジャグのメインモニタ にHITの文字が浮かぶ事は無かった。 黒煙の中からそれよりも黒いACが姿を現した。それはすでにジャグと同高度まで上昇しており、ミサイルポッドが開 いているのが分かるほど距離も近かった。 『テメェっ! ? 』 ユニオンジャックはその発射されるであろうミサイルを迎撃するためにインサイドのデコイを撒くが、デュライは構わず にミサイルを発射させた。真っ直ぐ飛び出したミサイルの列はデコイに引き寄せられジャグを追尾することは無かった。 『ハッハアッァアアーーーー! こいつで終いだぁあ! 』 ミサイルの誘爆を受けないようにユニオンジャックはジャグをさらに上昇させ、大型ミサイルを発射させた。彼はこれ で終わらせるつもりだった。さすがに大型ミサイルはACを一撃で破壊するほどの威力は無いにしても、その機構の殆 どを破壊するには十分な威力を持っている。後残っているのはその身動きのとれなくなった複雑にできた塊だ。破壊す るのはわけがない。そしてこの距離なら当るはずだ。それが彼の思惑だった。 しかしデュライはその思考を全て見透かしていた。彼にとってあのミサイルは当ろうが外れようがどうでも良かったの だ。狙いは上昇したジャグの真上、分厚いコンクリートと複合金属板でできた天井だ。 デスズブラザーのグレネードランチャーを展開させ、その砲身をジャグの真上に向ける。そしてそれは甲高い音ととも に発射された。その発射の反動はデスズブラザーを大きく後退させ、間近まで迫っていた大型ミサイルから距離を離し た。そしてグレネードは真っ直ぐ狙いを直撃し、爆風とともにコンクリートを撒き散らした。殺人的な速度を与えられたコ ンクリートはジャグの硬く脆い装甲を叩きつけ、爆風が地面へ吹き飛ばす。とてつもないスピードでの下降を止めようと ジャグのブースターをフル稼働させるが上昇にエネルギー使っていたため、すぐさまオーバーロードを告げるアラーム が鳴り響いた。 もう止められない。ついにその細い足はコンクリートの地面に接触した。その瞬間ボキリと正に脚の折れた音。そして 折れたのだ。メインモニタから分かるジャグの目線は一瞬のうちに下がりそのまま仰向けに倒れ、その目線の先には 黒い点、しかしそれは次第に大きくなっていく。しかしの目だけは地獄の炎の様に赤かった。そしてそれはそのままジャ グの胸を踏みつけるように着地、いや、正しく踏みつけたのだ。 『止め、止めろぉ! 』 ゴコココココ、と鉄の軋む音がジャグのコックピット内に伝わってくる。デスズブラザーは重量級としては軽量な部類に 入る。しかしそれでも重い。ジャグの重量コアが堅固なエムロード製であったため即座に潰れるようなことは無かったが それも長くは持ちそうに無い。 右手のバズーカ砲をデスズブラザーに向ける。この距離ならさすがに外れないだろう。しかしそのバズーカはその先 にあるデスズブラザーの左腕に設置されたレーザーブレードに縦に引き裂かれた。 それでも諦めずに重量コアに装備されたミサイル迎撃機銃を作動させた。タタタタ……と安っぽい音を出しながら吐き 出されるそれはAC、特に重装甲を誇るデスズブラザーの前には全く効果が無い。それを予想していたユニオンジャッ クはデスズブラザーの頭部、光学カメラを狙ったが、コアを踏みつけられているため狙いが定まらずその厚い装甲を申 し訳程度に叩くだけだった。 『何がしてぇええぇんだテメェえぇえええはよぉお! 』 いつまでも止めを刺そうとしない目の前の死神。それはユニオンジャックの狂気を恐怖によるものに変えるのに十分 だった。 管理火器を大型ミサイルランチャーに換え、それをデスズブラザーに向けた。既に爆風による影響を考える思考能力 は無く、ただ目の前の死神を追い払いたい一心だったのだ。ロックが終了し、トリガーを引く。しかしそれよりも先にデス ズブラザーからオーバードブーストが起動する音と、初めて聞くそのパイロット、デュライの声が聞こえた。 『分かるか? 』 それは低く、そしてツルギのものとは違う威圧感を感じるものだった。 『これがクールってやつだぜ』 外部音声によって伝えられた声はすぐ咆哮したオーバードブーストの起動音によってかき消された。急加速で一気に 距離が離される。 ユニオンジャックは助かった、と胸を撫で下ろしたがそれも一瞬の事だった。今までデスズブラザーのいた場所には デコイが一個、そこに漂っていた。そしてその先には先程空中で発射した二発目の大型ミサイルがゆっくりとそのデコ イに向かっているのが見えた。彼はそれによって起こる事を混乱した頭脳で一瞬に理解し、叫んだ。 『たぁあすけてくれぇええっぇえ! ナイツ! クラインーーーーー! 』 大型ミサイルがデコイに接触した。その爆発は更に今発射された大型ミサイルも誘爆させた。更にジャグのミサイル ポットに収納されていたミサイルまで誘爆し、その爆発力は最初のものとは比べものにならなかった。 光が弾け、もう一度弾け、さらにもう一度弾ける。そしてその弾けた光は次の瞬間には赤い炎の塊に変わりその中か らは黒煙をなびかせた塊が飛び出す。そしてそれは一瞬で行われ一瞬で終わった。 デュライは目の前のまるで何かの終のような光景を眺めながらも、先程のユニオンジャックの言葉を聞き逃さなかっ た。彼にはその言葉がはっきりと聞こえたのだ。 「クライン……?」 どういう事だ? なぜそこにクラインの名が出てくる? クラインは五年前に……。 デュライはそこで思考がループしてしまった。無理も無い。すでにこの世には存在しないはずの名前がつい先程聞か れたのだから。 呆然としているデュライは黒煙から現れた閃光に再び意識を現実に戻した。 それはバチバチと黒煙に混ざっている破片を小さく散らしながら先程の大爆発から崩壊を免れたビルの根元に直撃 した。火薬の爆発とは違う幻想的なほど綺麗な爆炎がそこに広がる。脆くなっていたビルはその爆発で安定を失い、デ スズブラザーに向かって倒れてきた。 「プラズマキャノン? まさかもう一体は……」 その言葉の前にデュライはデスズブラザーを後退させる。バックブースターとデスズブラザー自身の推進力で余裕を 持って逃げきった。 ビルが横倒しに倒れる。そこは今までデスズブラザーのいた場所だった。倒れたビルは衝撃で粉末の様になったコン クリートと白煙を撒き散らしながら既に跡形も無い。 「アルビノエンジェルだったか?」 既に忘れかけていたその名前を口にした瞬間、今度は白煙を貫いた閃光がその倒れたビルの向かいにあるビルの 根元を直撃する。それによって倒れたビルも砕けて瓦礫となり、デスズブラザーと先程の爆心地の間に壁を作った。 「ちっ」 デュライはコンデンサ容量の回復を待った。爆発からの離脱、ビルの倒壊からの離脱によってその容量は殆ど使い 切っていたのだ。それと同時にもう一度の攻撃があるのではと慎重になっていたのである。しかし心配していた追撃は 無かった。 ブースターでACと同じ位の高さにまで積みあがった瓦礫の山を超える。高さよりもむしろその幅の方がビルの規模を 物語っていた。 山の先には何も無い。アルビノエンジェルはもちろんACの姿は無かった。 遠くで地下通路ゲートの開く音が響いた。デスズブラザーの全く逆の方向だがそれでも聞こえるほど大げさな音だ。 『敵戦力の一部の逃亡を確認しました。戦闘エリア内の敵戦力の全滅を確認しました。ミッションクリアー。システム通 常モードに移行します』 ミッションの終了を告げるコンピューターボイスがコックピットに響いた。そこにいた敵戦力を全滅させたわけではない がそれでも十分だとACが判断したのだろうか。 十字路を曲がるとその先の広場には先程破壊したMTの入っているコンテナがたたずんでいる。とりあえずの目標は 破壊した。そうか、問題は無い。 デュライはそれを確認するとリグの待っているゲートにデスズブラザーを急がせた。 カーソルを移動させ、それをハンガーに持っていく。そうするとハンガーが俺の言う事を聞くようになった。レバーとそ れについているトリガーを微妙に動かしながらそれをデスズブラザーの上に移動させる。すると今度はハンガーが勝手 に動き始めデスズブラザーの背中に取りつき持ち上げ始めた。一瞬デスズブラザーの目が赤く光り膝が曲がる。そして そのまま膝をつき屈むようにして動きを止めた。目の光はもう消えている。 次にコンテナが線路の上を移動し始め、デスズブラザーの横に止まる。そしてそれから伸びたロボットアームがデス ズブラザーからマシンガンを取り上げ自分のコンテナの中に収めた。 「便利なもんだ」 そう言ってみる。 後は勝手に作業が続くだろう。特別な操作も知識も要らない。マニュアル通りにやっていればなんとかなる。リグはそ の辺りはさすがにACに似ている。 今回の戦いでマシンガンは牽制に使っていた事もあり結構使い過ぎたようだ。マガジンを交換した方が良いな。すぐす る必要は無いが。 ……クライン あのジャグとか言ったACのパイロットは確かにそういった。どういう事だ? まさかクラインが生きていたとでも言うの か? それになぜそのクラインがインディーズに? ……今考えてもどうにもならないか。俺は運転室に向かった。それでもある程度は自動で目的地まで向かってくれる ので俺は命令をするだけだが。 ……クライン。 フライトナーズがまだ動いてるってのか? クラインはまだ生きてるってのか? 俺はどうしようもない焦りを感じている。理由は……分からない。 ベンがロジャーの部屋から出てきてきた。そしてドアを閉めると下で煙草を吸っているバーメンタイドに首を振って見 せた。そうかとバーメンタイドはデスクの上にあるアルミの灰皿にまだ長い煙草を押しつけた。 「まったくよ、休むと思ったら病院行って、帰ってきたら今度は起き上がらないか」 バーメンタイドは呆れたようにそう言った。その後ろでは残りの整備士達がACの腕部を特殊腕部、デュアルプラズマ キャノンに換装している。 特殊腕部、それもEN兵器の扱いは複雑且つややこしいものなのだ。それゆえ人手は多いに越した事は無い。しかし ロジャーは病院から帰ってきたきり部屋にこもったままなのだ。だからベンに起こしてくるように言ったのだが、 「なんつーか、押しても引いても叩いても、耳引っ張っても鼻を摘んでも、起きませんよこれ」 だそうだ。 「どうしたんですかね?」 彼らにしてもロジャーが寝坊したり寝過ごしたりなどというのは初めてだったのだ。ベンは脱いでポケットに押しこんで いた黒く汚れた手袋を取り出しながらその事を思い出していた。 「さあな」 バーメンタイドは素っ気無く言った。病院の帰りだ。思い当たらないわけでもない。しかしそれが睡眠薬ではなく痛み 止めだとは思わないのだろうが。 ふと目線の先にパイプ椅子に座っているジーノの姿があった。何かをしているという様子は無く、シャッターの向こうを ボーっ、と見ているようだった。 「ねえジーノ。ロジャーどうしちゃったわけ?」 今度はあいつか、とベンは手袋をはめながらそんなジーノに声を掛けた。 「え? えーと……」 大体の事は知っている。しかしジーノには話す気にはなれなかった。どうしてだかは彼女にもわからない。しかしやは り話す気にはなれなかった。 「疲れが溜まってるって」 だからそういう事にした。 既に作業に移っているバーメンタイドを見つけ、ベンもそういう事で納得する事にした。バーメンタイドにどやされる前 に持ち場のマニピュレーター操作パネルに元に走った。 ジーノはそんな様子を眺めながら視線をシャッターの先に戻した。ACを扱っているガレージの近くには工場ぐらいし か無く、寂しい風景に見える。更にそこに降っている雨はその風景を一層寂しいものにしていた。 ビリーは書類倉庫の引出しからファイルを出したり戻したりしていた。一見すれば不信人物だ。しかし彼はそんな事を 考える事も無くあるものを探していた。何を探しているのかは彼自身はっきりはしていなかった。 「たしか……なんかそういうやつあったよなぁ」 彼も殆ど諦めているようだった。今日診たロジャー・バートというレイヴン。彼はとてつもない回復力を持っていた。そ してビリーはそれに似たものを見た事がある。 しかしいざそれを探すのは骨だった。Aの項目だけでも凄まじい量だ。今はDの項目に掛かっているところだが既に 探し出してから5時間。そろそろこの病院も閉まるところだ。 「うん?」 ビリーの手がそのファイルに止まった。見た目も他に比べると明らかに薄くその量も少ない。しかしそれこそ彼の探し ているもののようだった。 早速書類を紐解き中身を取り出す。それにはレントゲン写真や、MRI写真は入っておらず、書類だけが入っていた。 そこには「Dury」と書かれていた。 「ヂュリー? いや、たしかデュライだったか?」 次第に思い出してきた彼はその書類に目を通す。 そこにはそのデュライという人物が通常なら全治3ヶ月という火傷を負った後に全くの治療無しで退院したとある。しか も僅か数日で治癒したのだという。 似てる…… その殆ど報告書の様になっているカルテから見ても彼はそう思った。その報告書を書いたのは「ニコライ・ヴァン・トゥ ワイフ」というオールドザムの医者らしい。 連絡を取れないだろうか。ビリーは彼のいる病院を探し始めた。 AC デスズブラザー RAVEN デュライ
標準仕様。 AC ジャグ RAVEN ユニオンジャック
極端なまでの基準違反機体。上半身を重装甲で固め、脚部はフレーム強度に優れる最軽量型の逆関節としている。 それに合わせジェネレーター、ラジエーターも最強のものとなり、武装も強力なものとなっている。 アリーナでは空中からの圧倒的な火力による攻撃により強引に撃ち砕き、勝ち続けていたが、ミッションという通常と は違う戦局によりデスズブラザーに誘導され、最後には自爆した。 AC アルビノエンジェル RAVEN ナイツ
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